
1. 序論
1.1 調査の背景と目的
ロサンゼルス・イングルウッドに位置する「ザ・フォーラム(The Forum)」は、半世紀以上にわたりアメリカ西海岸のエンターテインメントとスポーツの聖地として君臨してきました。
古代ローマの円形闘技場を模したその威容は、ロサンゼルスのスカイラインにおける象徴的なランドマークであり、数々の伝説的なスポーツの試合や、音楽史に残るコンサートの舞台となってきました。
1967年の開業以来、この会場は「ショータイム」と呼ばれたレイカーズの黄金時代を支え、ロック・レジェンドたちの殿堂として機能してきましたが、1999年のステープルズ・センター開業に伴い、一度はその役割を終えたかに見えました。
しかし、2014年のマディソン・スクエア・ガーデン・カンパニー(MSG)による大規模な改修を経て、フォーラムは「音楽専用アリーナ」として奇跡的な復活を遂げました。
本記事は、この歴史的建造物の詳細な沿革、建築的特徴、およびその再生プロセスについて詳述するとともに、2019年10月11日に同会場で行われた日本のメタルダンスユニット、BABYMETALによる単独公演「LIVE AT THE FORUM」に焦点を当てます。
この公演は、日本人アーティストとして初となる同会場での単独アリーナ公演という記録を打ち立てただけでなく、同日リリースされたアルバム『METAL GALAXY』が全米ビルボードのロック・アルバム・チャートでアジア人アーティストとして史上初の1位を獲得するという快挙とも連動した、日米音楽史における極めて重要なマイルストーンです。
本記事では、会場の物理的・歴史的背景を深く掘り下げた上で、BABYMETALがその舞台で何を成し遂げたのか、そのプロダクションの特異性、セットリストの構成、そして業界へのインパクトについて、多角的な視点から徹底的な分析を行います。
建築史、スポーツ史、そして音楽産業論が交差する地点としての「ザ・フォーラム」と、そこで新たな歴史を刻んだBABYMETALの軌跡を紐解くことで、現代エンターテインメントにおける「場所」と「アーティスト」の相互作用を明らかにすることを目的とします。
1.2 報告書の構成
本記事は以下の構成によって展開されます。
- 第2章: ザ・フォーラムの創設から現在に至るまでの歴史的変遷を、建築的特徴と主要なイベントを通じて分析します。
- 第3章: 2014年のMSGによる再生プロジェクトの詳細、特に音響設計と「音楽第一」の哲学について検証します。
- 第4章: BABYMETALの2019年時点での立ち位置と、フォーラム公演に至る文脈を整理します。
- 第5章: 公演「LIVE AT THE FORUM」の詳細なプロダクション分析、セットリストの解説、および演出の意図を考察します。
- 第6章: 本公演が達成した記録的意義と、グローバルな音楽市場における影響力を評価します。
- 第7章: 結論として、場所の記憶とアーティストの進化がもたらした相乗効果を総括します。
2. ザ・フォーラム(The Forum):栄光と衰退、そして再生の年代記
2.1 創設のビジョン:「スポーツ界のタージ・マハル」
ザ・フォーラムの歴史は、1960年代半ば、カナダ出身の起業家でありスポーツ界の重鎮であったジャック・ケント・クック(Jack Kent Cooke)の野心的な構想に端を発します。
当時、ロサンゼルス・レイカーズ(NBA)のオーナーであったクックは、自身が新たに設立したNHLチーム、ロサンゼルス・キングスの本拠地としても機能する、世界最高峰の屋内競技場を建設することを決意しました。
彼はこの新アリーナを「スポーツ界のタージ・マハル」と呼ぶことを夢見ていました。
クックのビジョンは明確でした。
それは単なる体育館ではなく、観客に畏敬の念を抱かせるような、壮麗で記念碑的な建築物を作ることでした。
彼は、古代ローマの建築様式にインスピレーションを求め、それが「ザ・フォーラム」という名称と、円形闘技場を模したデザインへと結実しました。
2.2 建築デザインと構造的革新
設計は、著名な建築家チャールズ・ラックマン(Charles Luckman)の事務所(Charles Luckman Associates)に委託されました。
ラックマンは、前年にニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデン(MSG)を手掛けた実績を持つ人物であり、大規模な集客施設の設計において卓越した手腕を持っていました。
1966年7月1日に着工し、約1,600万ドル(2024年換算で約1億5,100万ドル相当)の建設費を投じて建設されたフォーラムは、1967年12月30日に華々しくオープンしました。
その建築的特徴は以下の通りです。
2.2.1 現代のローマ・コロッセオ
建物の外観は、古代ローマの円形闘技場を現代的に解釈したものです。
- 列柱(Colonnade): 建物を取り囲む巨大な白い柱が特徴的で、これらは上部でフレア状に広がり、優雅なスカラップ(帆立貝)のようなアーチを形成しています。この列柱は、カリフォルニアの青い空に対して劇的なシルエットを描き出し、訪れる人々に神殿のような印象を与えます。
- 色彩: 当初の外壁は「カリフォルニア・サンセット・レッド(フォーラム・レッド)」と呼ばれる独特の赤色で塗装されており、白い柱とのコントラストが鮮烈でした。これは、後の改修で一時的に青色に変更されましたが、2014年のリノベーションでオリジナルの赤色が復元されることになります。
2.2.2 画期的な無柱空間
構造エンジニアリングの観点からも、フォーラムは当時の最先端を行くものでした。
- 吊り屋根構造(Cable-Suspended Roof): 外周の列柱は鉄筋コンクリート製の巨大な「圧縮リング」を支えており、そこから直径約407フィート(約124メートル)のケーブル吊り屋根が懸架されています。この構造により、アリーナ内部には視界を遮る柱が一本も存在しない、広大な無柱空間が実現されました。
- 圧縮リング: 1967年当時、この圧縮リング構造は全米最大級のものであり、18,000人近い観客全員にクリアな視界を提供することを可能にしました。これは、スポーツ観戦やコンサート体験において革命的な設計でした。
| 項目 | データ |
| 開場日 | 1967年12月30日 |
| 建設費 | 1,600万ドル |
| 設計 | チャールズ・ラックマン |
| 構造 | ケーブル吊り屋根構造 |
| 収容人数 | 約17,500人 |
2.3 「ザ・ファビュラス・フォーラム」の黄金時代(1967-1999)
1967年から1999年まで、フォーラムはロサンゼルス・レイカーズ(NBA)とロサンゼルス・キングス(NHL)のホームとして機能しました。
この32年間は、フォーラムが「ザ・ファビュラス・フォーラム(The Fabulous Forum)」として世界的な名声を確立した時代です。
2.3.1 「ショータイム」レイカーズの伝説
特に1980年代、ジェリー・バス(Jerry Buss)がオーナーとなり、マジック・ジョンソン、カリーム・アブドゥル=ジャバーらを擁したレイカーズの黄金時代は「ショータイム」と呼ばれました。
バスは、バスケットボールの試合を単なるスポーツではなく、ハリウッド的なエンターテインメントへと昇華させました。
「レイカー・ガールズ」によるダンスパフォーマンスや、コートサイドに陣取るジャック・ニコルソンらセレブリティの姿は、フォーラムの名物となりました。
この時代、レイカーズはフォーラムで5度のNBAチャンピオンに輝き、1982年の優勝時にはファンがコートになだれ込んで選手と共に祝うという、現在では考えられない熱狂的な光景が繰り広げられました。
2.3.2 「ミラクル・オン・マンチェスター」とオリンピック
アイスホッケーにおいても、1982年のプレーオフでキングスが最大5点差を跳ね返して勝利した「ミラクル・オン・マンチェスター(Miracle on Manchester)」と呼ばれる伝説の試合が生まれました。
また、1984年のロサンゼルスオリンピックでは、バスケットボールとハンドボールの会場として使用され、マイケル・ジョーダン率いるアメリカ代表が金メダルを獲得した舞台ともなりました。
これらのスポーツイベントを通じて、フォーラムが位置するイングルウッドは「チャンピオンの街(City of Champions)」という異名を持つようになりました。
2.3.3 ロックの殿堂として
スポーツと並行して、フォーラムは音楽コンサートの聖地としても確固たる地位を築きました。
- アレサ・フランクリン: 1968年1月、最初の音楽アクトとしてステージに立ちました。
- 伝説的公演: レッド・ツェッペリン、クイーン、イーグルス、ジャクソン、プリンスなど、時代の寵児たちが次々とフォーラムのステージを踏みました。レッド・ツェッペリンの海賊盤ライブアルバム『Live on Blueberry Hill』など、数々の伝説的な録音がここで生まれています。
- ニール・ダイアモンド: 1989年には、フォーラムで10公演連続ソールドアウトという当時の記録を打ち立てました。
2.4 衰退の時代:ステープルズ・センターへの移転と「緩やかな放置」
しかし、1990年代に入ると、設備の老朽化や、より多くのラグジュアリーボックス(VIP席)を求めるビジネスモデルの変化により、フォーラムの優位性は揺らぎ始めました。
1999年、ロサンゼルス・ダウンタウンに最新鋭のステープルズ・センター(現Crypto.com Arena)が開業すると、レイカーズとキングスは本拠地を移転しました。
主要テナントを失ったフォーラムは、その後、フェイスフル・セントラル・バイブル教会(Faithful Central Bible Church)によって購入されました。
教会は日曜日の礼拝に使用する一方でコンサート会場としての貸し出しも続けましたが、メンテナンスへの投資は最小限に抑えられ、建物は「緩やかな放置(benign neglect)」の状態に陥りました。
かつての輝きは色褪せ、解体の危機さえ囁かれるようになりました。
3. 再生:MSGによる「音楽専用アリーナ」への革命的改修
3.1 マディソン・スクエア・ガーデン・カンパニー(MSG)の登場
歴史的なアリーナが次々と解体される中、フォーラムに救いの手を差し伸べたのは、かつてのライバルとも言えるニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデン・カンパニー(MSG)でした。
2012年、MSGはフォーラムを2,350万ドルで買収しました。
MSGの戦略は明確でした。
それは、再びスポーツチームを誘致してステープルズ・センターと競合するのではなく、フォーラムを**「全米最大級の音楽・エンターテインメント専用アリーナ」**として再定義することでした。
これは、プロスポーツチームのスケジュールに縛られず、アーティストにとって最適な日程と環境を提供できることを意味しました。
3.2 2014年の大規模リノベーション:「音楽ファースト」の追求
MSGは、建物の歴史的価値を保存しつつ、現代のトップアーティストが求めるスペックを満たすために、約1億ドル(資料によっては7,650万ドル)を投じて大規模な改修を行いました。
2014年1月の再オープンに向けて行われたこのプロジェクトは、House & Robertson Architectsなどの専門家チームによって主導されました。
3.2.1 音響と構造の最適化
「音楽専用」への転換において、最大の課題は音響でした。
スポーツアリーナは通常、観客の歓声を増幅させて盛り上げるために反響しやすく設計されていますが、これはコンサートにとってはノイズとなります。
- 吸音処理: 天井や壁面に大規模な吸音材を設置し、残響時間を大幅に短縮しました。これにより、ロックコンサートの大音量でも音が濁らず、クリアに聴こえる環境が整備されました。
- スカイデッキ(SkyDeck)の導入: 天井には「スカイデッキ」と呼ばれるテンションワイヤーグリッドシステムが導入されました。これは世界最大級の規模を誇り、従来の吊り下げ重量制限を大幅に緩和しました。改修により屋根には230トンの補強鋼材が追加され、現代の大規模なコンサート演出に不可欠な巨大な照明リグや吊り下げ型ステージセットを安全に支えることが可能になりました。これは、後述するBABYMETALの巨大なプロダクションを実現する上でも決定的な要素となります。
3.2.2 アーティストと観客のための空間
- 楽屋の刷新: かつて汗臭いスポーツ用ロッカーだった部屋は、ホテルのスイートルームのような豪華な「アーティスト・ドレッシング・ルーム」へと作り変えられました。これにより、ツアー中のアーティストに最高のくつろぎを提供することが可能になりました。
- フォーラム・レッドの復活: 外壁は、1990年代の青色から、オリジナルの「カリフォルニア・サンセット・レッド」へと塗り直され、1960年代の優雅な姿を取り戻しました。
- ホスピタリティ: コンコースや座席も全面的にリニューアルされ、アリーナフロアとコンセッション(売店)エリアをガラス壁で仕切ることで、フードやドリンクを買いに行ってもステージの様子が見えるように配慮されました。
2014年1月15日、イーグルスの6公演にわたるコンサートによって、新生フォーラムはその扉を再び開きました。
以降、ポールスター誌やビルボード誌のランキングでも常に世界トップクラスのチケット売上を誇るアリーナとして、完全な復活を遂げました。
4. BABYMETAL:2019年の軌跡と「METAL GALAXY」
4.1 「Kawaii Metal」の衝撃と進化
2010年の結成以来、アイドルとヘヴィメタルを融合させた「Kawaii Metal」というジャンルを開拓してきたBABYMETALは、2014年の1stアルバム『BABYMETAL』で世界的な注目を集めました。
2016年の2ndアルバム『METAL RESISTANCE』では、イギリスのウェンブリー・アリーナ(SSE Arena, Wembley)で日本人初の単独公演を成功させ、全米ビルボード200で39位にランクインするなど、着実に世界での足場を固めてきました。
しかし、2018年はグループにとって試練の年でした。長年共に活動してきたYUIMETALの脱退、そしてそれに伴う「ダークサイド」と呼ばれる体制変更は、ファンの間で動揺を呼びました。
2019年は、その混乱を乗り越え、新たな体制で「銀河」へと旅立つための再生の年として位置づけられていました。
4.2 第3章「METAL GALAXY」とアベンジャーズ体制
2019年、BABYMETALは3rdアルバム『METAL GALAXY』のリリースを発表しました。
このアルバムは「メタルの銀河を旅するオデッセイ」をコンセプトとし、世界各国の音楽要素を取り入れた意欲作でした。
ライブパフォーマンスにおいては、SU-METALとMOAMETALの2人に加え、サポートダンサー「アベンジャーズ(Avengers)」を1名起用する3人体制(トライアングル)を確立しました。
アベンジャーズには、元モーニング娘。の鞘師里保、さくら学院出身の岡崎百々子(後のMOMOMETAL)、藤平華乃が選ばれ、公演ごとに交代で出演するというシステムが採用されました。
4.3 戦略的拠点としてのロサンゼルス・フォーラム
アルバム『METAL GALAXY』の世界同時リリース日である2019年10月11日に設定されたのが、ザ・フォーラムでの単独公演「LIVE AT THE FORUM」でした。
過去にX JAPANがニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデン(MSG)で公演を行っていますが、西海岸の象徴であり、音楽専用にリニューアルされたばかりのザ・フォーラムでの単独アリーナ公演は、日本人アーティストとして前例のない挑戦でした。
これは、BABYMETALがフェスティバルの一枠やサポートアクトとしてではなく、アメリカのエンターテインメント市場において「アリーナを埋められるヘッドライナー」であることを証明するための試金石でした。
5. 詳細分析:「LIVE AT THE FORUM」の全貌
2019年10月11日、金曜日。イングルウッドの空に「フォーラム・レッド」の円形建築が映える中、世界中から「THE ONE(ファン)」が集結しました。
5.1 プロダクションとステージ設計の革新
本公演の最大の特徴は、新生フォーラムの機能をフルに活用した、宇宙的な没入感を伴うステージプロダクションにありました。
5.1.1 「ムービング・ステージ」による空間支配
通常のアリーナ公演では、ステージは会場の一端に固定されますが、本公演ではアリーナの長手方向を貫く長い花道に加え、画期的な移動機構が導入されました。
- 通称「ルンバ」: メインステージの一部(円形部分)が、SU-METAL、MOAMETAL、そしてアベンジャーズ(この日は岡崎百々子が担当したと推測される場面が多いが、公式記録ではアベンジャーズの特定名はクレジットされない)を乗せたまま分離し、アリーナ中央から後方へと滑るように移動しました。
- 技術的仕組み: この移動ステージは、床下の磁気誘導やリモートコントロールによって制御されていると考えられ、ケーブルやレールが見えない状態でスムーズに移動するため、まるで演者が浮遊しているかのような錯覚を観客に与えました。ファンの間ではその形状と動きから親しみを込めて「ルンバ」と呼ばれました。
- 演出効果: プロデューサーのKOBAMETALによれば、この機構は「THRONE(玉座)」の世界と「COFFIN(棺桶)」の世界を物理的に繋ぐ物語上の装置であり、同時に、広大なアリーナのどの席にいる観客に対してもメンバーが物理的に接近するための手段でした。
5.1.2 スカイデッキと映像の融合
改修されたフォーラムの強力な吊り下げ能力(スカイデッキ)を活かし、ステージ背面には超巨大なLEDスクリーンが設置されました。
ここに映し出される銀河、星々、そして抽象的な幾何学模様は、照明と同期し、会場全体を宇宙船の内部へと変貌させました。
特に、移動ステージが動く際、背景の映像も連動して流れることで、観客は実際に銀河を高速移動しているような感覚(Immersion)を体験しました。
5.2 セットリスト詳細分析
セットリストは全15曲、約1時間半にわたるノンストップの構成でした。
アルバム『METAL GALAXY』の楽曲を軸に、BABYMETALの過去・現在・未来を繋ぐ物語として構築されていました。
| No. | 楽曲名 | 演出・特徴 | アルバム |
| 1 | FUTURE METAL | オープニングSE。スクリーンに銀河の旅立ちを告げる映像が流れる。 | METAL GALAXY |
| 2 | DA DA DANCE | ライブ初披露。90年代ユーロビートとメタルの融合。バブリーな扇子の振り付けが特徴。 | METAL GALAXY |
| 3 | メギツネ | 和風メタルの代表曲。「ソレ!ソレ!」の掛け声で会場の熱気が一気に爆発。 | BABYMETAL |
| 4 | Elevator Girl (Eng) | 英語バージョン。より洗練されたジャズピアノと大人の雰囲気を醸し出す。 | METAL GALAXY |
| 5 | Shanti Shanti Shanti | インド音楽を取り入れた楽曲。ボリウッドスタイルのダンスが巨大スクリーンに映える。 | METAL GALAXY |
| 6 | Kagerou | 神バンドソロからスタート。3人のヴォーカル&ダンスパフォーマンスが際立つ。 | METAL GALAXY |
| 7 | Starlight | YUIMETALへの惜別と希望を感じさせるジェント(Djent)曲。光の柱が天を突く照明演出。 | METAL GALAXY |
| 8 | ギミチョコ!! | 全米での知名度No.1楽曲。会場全体が大合唱となり、モッシュピットが活性化。 | BABYMETAL |
| 9 | PA PA YA!! | タイのラッパーF.HEROとコラボ(映像)。タオルを振り回す祭りのような盛り上がり。 | METAL GALAXY |
| 10 | Distortion | アリッサ・ホワイト=グラズ(Arch Enemy)とのコラボ曲。攻撃的なメタルコアサウンド。 | METAL GALAXY |
| 11 | KARATE | セカンドアンセム。観客とのコール&レスポンス、スマホライトによる「光の海」が出現。 | METAL RESISTANCE |
| 12 | ヘドバンギャー!! | 初期の代表曲。SU-METALがCO2ガスガンを放ち、会場を煽る。 | BABYMETAL |
| 13 | Road of Resistance | ドラゴンフォースとのコラボ曲。「ウォール・オブ・デス」が発生。旗を掲げた行進。 | METAL RESISTANCE |
| 14 | Shine | 海外初披露。アコースティックギターと静謐なダンス。太陽と月が重なる映像演出。 | METAL GALAXY |
| 15 | Arkadia | 海外初披露。疾走感あふれるメロディック・スピード・メタル。「光」へ向かう旅の完結。 | METAL GALAXY |
5.2.1 楽曲ごとのハイライト
- 『DA DA DANCE』: 1曲目の『FUTURE METAL』によるデジタルな導入から、いきなりライブ初披露となるこの曲へ繋がった瞬間、観客の期待は最高潮に達しました。90年代のジュリアナ東京を彷彿とさせる扇子を使ったダンスは、メタルの重厚さとポップカルチャーの軽やかさが融合したBABYMETALならではの世界観を提示しました。
- 『Shine』〜『Arkadia』: 本編ラストを飾ったこの2曲は、海外初披露でした。『Shine』での神聖で儀式的な雰囲気から、一転して『Arkadia』の爆発的なスピードへと移行する流れは、アルバムのクライマックスを再現するものであり、多くのファンが涙した瞬間でした。「光の三部作(Starlight, Shine, Arkadia)」と呼ばれる物語の完結を見せつけました。
5.3 「神バンド」と仮面の意味
BABYMETALのライブを支える凄腕バックバンド「神バンド(Kami Band)」の存在も欠かせません。
このツアーから、彼らは従来の白塗りコープスペイントではなく、不気味な仮面を着用して演奏するようになりました。
ファンの間では「表情が見えない」「ソロプレイ時のアイコンタクトが減った」として賛否両論がありましたが、その演奏技術は全く衰えていませんでした。
特にフォーラムの優れた音響環境(吸音処理された壁面)のおかげで、大村孝佳やLedaといったギタリストの繊細なピッキングニュアンスや、青山英樹のドラムの粒立ちが、アリーナの後方までクリアに届いていたことが特筆されます。
5.4 観客の多様性と熱狂
会場には、地元ロサンゼルスのみならず、全米各地、さらにはグアテマラや中国、日本から駆けつけたファンで埋め尽くされました。
特筆すべきは客層の広さです。
生粋のメタルヘッズ(メタルファン)に加え、アニメファン、コスプレイヤー、そして小さな子供連れの家族の姿も多く見られました。
これは、BABYMETALが特定のジャンルを超えた「現象」であることを示しており、フォーラムが目指した「あらゆるエンターテインメントを受け入れる場所」という理念とも合致していました。
6. 歴史的快挙と業界へのインパクト
6.1 「日本人初」の記録の真意
「LIVE AT THE FORUM」は、しばしば「アメリカでアリーナ公演を行った初の日本人」と紹介されますが、正確な歴史的コンテキストにおける意義は以下の通りです。
- 「ザ・フォーラム」単独公演:西海岸の歴史的殿堂であるザ・フォーラムにおいて、日本人アーティストが単独でヘッドライナーを務めたのはBABYMETALが史上初です。これは、X JAPAN(2014年)やL'Arc-en-Ciel(2012年)が東海岸のマディソン・スクエア・ガーデン(MSG)で行った偉業と並び立つ、西海岸における記念碑的達成です。
- フルスケールのアリーナ・ツアーの一環:単発の記念イベントとしてではなく、「METAL GALAXY WORLD TOUR」という大規模な世界ツアーの北米レグにおけるハイライトとして、17,500人規模のキャパシティを持つ会場(ステージセットにより実動員数は変動するが、ほぼフルスペック)を使用した興行を成功させた点は、ビジネス面でも大きな意味を持ちます。
6.2 ビルボードチャートでの歴史的勝利
この公演の成功を決定づけたのは、同時期に達成されたチャート記録との相乗効果です。
アルバム『METAL GALAXY』は、以下の記録を打ち立てました。
- Billboard 200 (総合アルバムチャート): 13位にランクイン。これは坂本九(1963年)以来、56年ぶりに日本人アーティストがTOP15入りを果たした快挙です。
- Top Rock Albums Chart: アジア人アーティストとして史上初めて1位を獲得しました。
ロックやメタルの本場であるアメリカにおいて、英語以外の言語(日本語)で歌われるアルバムがロックチャートの頂点に立ったという事実は、BABYMETALがニッチな存在からメインストリームの一角へと食い込んだことを証明しました。
フォーラム公演は、その「勝利宣言」の場として機能したのです。
6.3 メディアと批評家の反応
欧米の主要メディアもこの公演とアルバムの成功を大きく報じました。
- Loudwire: 「BABYMETALは二極化する存在だが、そのミュージシャンシップとステージクラフトは否定できない」と評し、ロックチャート1位のニュースを速報しました。
- Kerrang!: イギリスの老舗ロック誌は、SU-METALの「観客との距離が近く感じた」というコメントや、MOAMETALの「音楽には国境がない」という言葉を引用し、彼女たちが言語や文化の壁を超えて受け入れられている様子を伝えました。
- ファンレビュー: 多くの参加者がSNSや掲示板で「人生最高のショー」「音響と照明が完璧だった」と絶賛しました。特に「ムービング・ステージ」の効果による没入感への評価が高く、フォーラムの改修された音響設備がBABYMETALの複雑なサウンド(デスメタルからポップスまで)を忠実に再現していたことが報告されています。
7. 結論
ザ・フォーラムは、1967年にジャック・ケント・クックの「夢」として生まれ、レイカーズの「魔法」によって伝説となり、一度は時代の波に飲まれかけました。
しかし、2014年のMSGによる「音楽ファースト」の再生手術によって、再び世界最高峰のステージへと蘇りました。
2019年10月11日、BABYMETALはその再生されたフォーラムのステージに立ちました。
彼女たちの公演「LIVE AT THE FORUM」は、単なるコンサート以上の意味を持っていました。
それは、以下の3つの要素が奇跡的に融合した瞬間でした。
- 場所の力 (Genius Loci): ロックの歴史が染み付いた「ファビュラス・フォーラム」という空間が、日本のメタルダンスユニットという異質の存在を受け入れ、増幅させたこと。
- 技術と演出の勝利: 改修によって強化されたスカイデッキと最新のムービング・ステージ技術を駆使し、アリーナ全体を「メタルの銀河」へと変貌させる没入型エンターテインメントを完成させたこと。
- 記録への挑戦: ビルボードチャートでの歴史的記録と連動し、日本人アーティストがアメリカのメインストリーム・ロック市場において、アリーナクラスの興行を成立させ得ることを数字で証明したこと。
BABYMETALは、この夜、ザ・フォーラムの輝かしい歴史の1ページに、確かにその名を刻みました。
それは、かつてレッド・ツェッペリンやクイーンが立ったのと同じ場所に、東洋の「Kawaii Metal」が鳴り響いたという事実によって、音楽の多様性とグローバル化を象徴する出来事として記憶されるでしょう。
そして、ザ・フォーラムという会場自体も、BABYMETALという新しい才能を受け入れることで、その伝説を現代にアップデートし続けているのです。
本調査を通じ、ザ・フォーラムは単なる「箱」ではなく、そこで行われるパフォーマンスと相互に作用し、文化的な価値を増幅させる「生きた装置」であることが再確認されました。
BABYMETALの挑戦は、その装置のポテンシャルを最大限に引き出した好例として、今後も語り継がれていくことでしょう。