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【ぽこピー】ぽんぽこさんとピーナッツくんの型破りな世界

バーチャルYouTuber(VTuber)業界が巨大な企業エージェンシーによって形成される現代において、その潮流とは一線を画し、独自の創造性と確固たる独立性で輝きを放つユニットが存在します。

それが、「甲賀流忍者!ぽんぽこ」さんと「オシャレになりたい!ピーナッツくん」から成る「ぽこピー」です。

彼らの成功は、企業に所属しない「個人勢」でありながら、大手企業のタレントに匹敵、あるいはそれを凌駕する影響力を持ち得ることを証明しています。

本レポートでは、この稀有なユニットの核心に迫ります。

個々のキャラクターの魅力、活動の根幹を成す実の兄妹という絆、そしてその創造主である「兄ぽこ」さんの役割を解き明かします。

さらに、彼らのメインプラットフォームである「ぽんぽこちゃんねる」の独創的なコンテンツ戦略、VTuber業界全体を巻き込む一大イベント「ぽんぽこ24」、そしてVTuberコミュニティの年末の風物詩となった「刀ピークリスマス」まで、ぽこピーを構成するあらゆる要素を網羅的に分析し、彼らがなぜこれほどまでに多くの人々を惹きつけ、現代のエンターテインメントシーンにおいて重要な存在となり得たのかを明らかにします。

これは、クリエイティブな自由、本物の化学反応、そしてバーチャルとリアルの境界を越えるユニークなエンターテインメントの探求が生み出した、一つの成功物語です。

第1節:核心となる二人組 ― 二元性のプロファイル

ぽこピーの魅力の根源は、二人のメンバーが持つ対照的でありながら補完的なキャラクター性にあります。

一方は日本の伝統と地域性を背負った快活な忍者、もう一方はインターネットカルチャーの申し子のような奇抜な5歳児。

この二元性が、彼らのコンテンツに深みと広がりを与えています。

1.1 甲賀流忍者!ぽんぽこ ― 滋賀から来た陽気なタヌキ

甲賀流忍者!ぽんぽこさんは、2018年2月に活動を開始したVTuberです。

彼女のキャラクター設定は、滋賀県甲賀市に住むタヌキの忍者であり、地元を盛り上げるために人間の女の子の姿に化けている、というものです。

この地域に根差したアイデンティティは彼女の活動の核であり、「ぽんぽこねぇ、たぬきなのっ!」というキャッチーな決め台詞は、彼女の存在を象徴しています。

その性格は「天真爛漫」という言葉がふさわしく、常に明るくエネルギッシュな「陽キャ」として知られています。

100円ショップやたこ焼き、カフェオレをこよなく愛する一方で、野菜や豆腐、納豆などを苦手とする極端な「偏食家」という人間味あふれる一面も持ち合わせています。

ぽんぽこさんの特筆すべき点は、忍術の「変化(へんげ)」によって様々な姿を見せる点です。

普段の女の子の姿のほか、本来のタヌキの姿、そして「ガチ恋ぽんぽこ」と呼ばれる美少女の姿など、企画に応じて自在に見た目を変えます。

特に「ガチ恋ぽんぽこ」は、激辛料理や昆虫食といった過酷なチャレンジ企画の際に現れる別人格とされ、アイドルとして音楽ライブイベント「バーチャルTIF」のステージに立ったこともあります。

彼女の活動における最大の功績の一つが、2020年の「ゆるキャラグランプリ」企業・その他部門での優勝です。

これは、VTuberという枠を超え、一個のキャラクターとして広く愛されていることの証明となりました 。

1.2 オシャレになりたい!ピーナッツくん ― 5歳の博学者

ピーナッツくんは、ぽこピーのもう一人の主役であり、その存在はVTuber業界において極めて異彩を放っています。

彼の原点は、VTuber活動に先駆けて2017年から兄ぽこさんが個人制作していたショートアニメ『オシャレになりたい!ピーナッツくん』の主人公であることです。

キャラクターはピーナッツの頭を持つ5歳の男の子で、赤いスカーフと白いブリーフ一枚という非常にシンプルな出で立ちです。

その「二頭身キモカワほぼ全裸ダミ声」と形容されるデザインは、美麗なアバターが主流のVTuber界において意図的な差別化要因となっています。

彼はこのニッチな立ち位置を自覚し、他のVTuberが手掛けないような企画を自身の強みとしています。

性格は対照的に「陰キャ」とされ、ゲームや町中華、サウナを好むなど、内向的な趣味を持っています。

しかしその内面には、VTuber業界全体を俯瞰する鋭いメタ的な視点も備わっています。

彼のファンは「おともナッツ」と呼ばれ、ピーナッツくんは彼らが全員「JK(女子高生)」であると主張するなど、視聴者との間に独特のロールプレイング関係を築いています。

ぽんぽこさんに先駆け、ピーナッツくんは2019年の「ゆるキャラグランプリ」で優勝を果たしました。

企業や団体に所属しない個人キャラクターとしての優勝は史上初であり、インディペンデントなクリエイターにとって歴史的な快挙となりました。

ぽんぽこさんとピーナッツくんのプロファイルは、陽と陰、伝統とサブカルチャー、可愛らしさと奇抜さといった具合に、見事なまでの対比を成しています。

この対照性は偶然の産物ではなく、彼らのエンターテインメントの根幹を成す戦略的な構造であると考えられます。

二人の掛け合いはしばしば「兄妹漫才」と評されますが、そこではピーナッツくんのブラックでシニカルなユーモアを、ぽんぽこさんの天真爛漫なキャラクターが中和し、バランスを取るという構図が頻繁に見られます。

この構造により、彼らは単独のVTuberではリーチし得ない、極めて広範な視聴者層へのアピールを可能にしています。

可愛らしく健全なコンテンツを好む層はぽんぽこさんに、一方で鋭く風刺の効いたインターネットカルチャー色の強いコンテンツを求める層はピーナッツくんに惹きつけられます。

「ぽこピー」というユニットは、これら二つの異なる視聴者層を繋ぐ架け橋として機能し、互いの魅力を紹介し合うことで、より強固で多様なファンベースを築き上げているのです。

二人がそれぞれ異なる年にゆるキャラグランプリを制覇した事実は、彼らが個々に独立したブランド力を持ちながら、ユニットとして相乗効果を生み出していることの何よりの証左と言えるでしょう。

第2節:設計者とその力学 ― 「兄ぽこ」と兄妹の絆

ぽこピーの活動を深く理解するためには、キャラクターたちの背後に存在する創造主と、彼らの間に流れる本物の人間関係に目を向ける必要があります。

それが、プロデューサーである「兄ぽこ」さんと、彼とぽんぽこさんの実の兄妹という絆です。

2.1 兄ぽこ ― 舞台裏の創造主

「兄ぽこ」さんは、ぽんぽこさんの実の兄であり、ぽこピーというプロジェクト全体の企画、制作、そして運営を手掛ける中心人物です。

彼はピーナッツくんのキャラクターボイスを担当し、原点であるショートアニメ『オシャレになりたい!ピーナッツくん』の脚本とアニメーション制作も一人で担っています。

元々、兄ぽこさんは会社員として働きながら、余暇を使ってアニメ制作を行っていました。

しかし、活動が軌道に乗る中で、彼は大きな決断を下します。

2018年12月に会社を退職し、VTuberおよびコンテンツクリエイターとしての活動に専念することを発表したのです。

この専業化は、ぽこピーの活動が質・量ともに飛躍的に向上する大きな転機となりました。

専門的なアニメーション教育を受けた経験がないにもかかわらず、彼はAdobe Character Animatorというソフトに出会ったことをきっかけに独学で制作技術を習得しました。

その創造意欲は非常に高く、ある資料では彼が自身の作品で「エヴァンゲリオンを超えたい」と語っていることが記されており、単なるエンターテインメントの提供に留まらない、強い芸術的野心を抱いていることが窺えます。

また、ピーナッツくんの音楽活動における別名義「レオタードブタ」の生みの親でもあります。

2.2 兄妹 ― ぽこピーの魅力の真髄

ぽこピーのコンテンツが持つ温かみと安心感の源泉は、ぽんぽこさんとピーナッツくん(を演じる兄ぽこさん)が実の兄妹であるという事実にあります。

この関係性は公然の事実であり、彼らの魅力の核心を成す要素です。

この本物の兄妹関係は、彼らのユーモアに対する一種の「セーフティネット」として機能しています。

動画内で繰り広げられる口喧嘩や過激ないたずら、辛辣なツッコミ合いも、視聴者はそれらが深い家族の信頼関係に基づいたものであると理解しているため、悪意のあるものとしてではなく、安心して楽しむことができるのです。

彼らのやり取りは、時に支え合い、時に競い合い、しばしば混沌とする、極めて現実的な兄妹の姿を映し出しています。

忍者タヌキと喋るピーナッツというファンタジックな設定に、この普遍的で共感を呼ぶ人間関係が加わることで、キャラクターに確かなリアリティが与えられ、視聴者との間に強い親密さと「エモい」と表現される感情的な繋がりを生み出しています。

さらに、滋賀の実家から、何の後ろ盾もなく二人で活動を始めたというインディペンデントとしての物語は、視聴者が自然と彼らを応援したくなる強力なナラティブを形成しています。

兄ぽこさんの存在は、ぽこピーの物語において興味深い構造を生み出しています。

彼はプロジェクト全体の創造主でありながら、自身のアバターを持たず、公の場に「兄ぽこ」として姿を現すことはほとんどありません。

彼の存在は、主にピーナッツくんというキャラクターを通して、あるいは画面外からの声として感じられます。

この意図的な半匿名性は、彼が主役(ピーナッツくんとして)であると同時に、舞台裏の操縦者でもあるという二重の役割を可能にしています。

これにより、視聴者は表層では「ピーナッツくん」というキャラクターの物語を楽しみつつ、深層では「兄ぽこ」というクリエイターの物語にも感情移入することができます。

例えば、年末の恒例企画「刀ピークリスマス」のCパートでは、彼は「ピーナッツくんのご主人様」として登場し、メタ的な視点から会話に参加します。

この構造は、VTuberというキャラクターの幻想を守りながらも、クリエイター自身の物語を魅力の一部として組み込むことを可能にしています。

ファンは5歳のピーナッツと、彼を演じるクリエイターの両方を同時に応援できるのです。

このような洗練された物語管理は、彼らが長期にわたって、創作過程そのものに価値を見出す成熟したファン層から支持され続ける理由の一つと言えるでしょう。

第3節:遊び場 ― 「ぽんぽこちゃんねる」の徹底解剖

ぽこピーの活動の中心地であるYouTubeチャンネル「ぽんぽこちゃんねる」は、彼らの独創的な哲学が最も色濃く反映された場所です。

ライブ配信が主流のVTuber業界において、彼らは異なるアプローチで独自の地位を確立しました。

3.1 配信を超えて ― 「動画勢」としての哲学

VTuberシーンの大多数がライブ配信を活動の主軸とする中で、ぽこピーは一貫して事前に収録・編集された「動画」の投稿を重視する「動画勢」としてのスタンスを貫いています。

彼らのチャンネル「ぽんぽこちゃんねる」では、週に1〜2本の質の高い企画動画が公開されており、これが彼らの基本的な活動スタイルです。

そのコンテンツは極めて多様性に富み、従来のVTuberの枠組みよりも、むしろ実写系のYouTuberに近いと言えます。

琵琶湖を自転車で一周する「ビワイチ」のような旅行Vlog、大食いや激辛料理への挑戦、様々な商品を比較レビューする企画、そして手の込んだドッキリなど、その内容は多岐にわたります。

彼らの最大の特徴は、バーチャルとリアルを巧みに融合させる点にあります。

着ぐるみやハンドパペットといった物理的な身体を用いて現実世界で活動することも頻繁にあり、彼らが冗談めかして「甲賀流CG」と呼ぶその実写映像は、バーチャルエンターテインメントの既成概念を打ち破るものです。

3.2 VTuberの伝統行事 ― 「ぽんぽこ24」の伝説

「ぽんぽこ24」は、ぽこピーが主催する年に一度の24時間連続生放送企画であり、今やVTuber業界全体の恒例行事となっています。

その歴史は2018年5月に遡ります。

当時、VTuberによる24時間企画生放送は前例がなく、ぽこピーが初めてこの挑戦を成功させました。

この初回放送は、にじさんじ所属の人気ライバーをはじめ、企業の垣根を越えて多種多様なゲストが参加する画期的なものでした。

このイベントは、ぽこピーが個人勢でありながら業界の第一線で活躍する存在であることを決定づける、キャリアの大きな転換点となりました。

特に注目すべきは、初回開催の背景です。

当時、多くのVTuberがYouTubeの収益化審査の遅れに悩んでいました。

そこでぽこピーは、すでに収益化が通っていたピーナッツくんのチャンネルで配信を行い、ゲスト出演パートで得られたスーパーチャット収益の全額をゲストに還元するという画期的な試みを実施しました。

これは、コミュニティ全体を盛り上げようとする彼らの姿勢を示す象徴的な出来事でした。

以来、「ぽんぽこ24」は毎年恒例の「お祭り」として定着し、大手事務所のスターから新進気鋭の個人まで、数多くのVTuberが一堂に会する貴重な交流の場となっています。

このイベントは、ぽこピーが単なるコンテンツクリエイターではなく、VTuberコミュニティにおけるリーダーであり、才能のキュレーターでもあることを示しています。

ぽこピーが選択した「動画勢」というスタイルは、単なる好みの問題ではなく、大手企業が支配する市場における巧みな生存戦略と見ることができます。

VTuber事務所のビジネスモデルは、一人のタレントが最小限の制作コストで長時間のコンテンツを生み出せるライブ配信の効率性に大きく依存しています。

対照的に、ぽこピーが手掛ける旅行Vlogや実写ロケを伴う企画動画は、企画立案、移動、撮影、そして長時間の編集作業を必要とし、これを大規模な組織で常時行うには多大なリソースとコストがかかります。

彼らは、企業がスケールメリットを活かしにくい、手間のかかるコンテンツ領域をあえて主戦場とすることで、大手との直接的な競争を避け、独自のブランドを築き上げました。

彼らは同じ土俵で戦うのではなく、全く異なる競技を選んだのです。

この戦略によって、彼らは「質の高い企画」「創造性」「現実世界との繋がり」といった独自のブランドイメージを確立することに成功しました。

これは、独立したクリエイターが巨大な資本と競争する上で、フォーマットと制作価値による差別化がいかに有効な手段であるかを示す、優れた事例と言えるでしょう。

第4節:拡張する世界観 ― ピーナッツくんのソロ活動

ぽこピーの魅力はユニット活動だけに留まりません。

特にピーナッツくんは、その原点であるアニメーションと、高く評価される音楽活動という二つの大きなソロ領域を持ち、ぽこピーの世界観に比類なき深みを与えています。

4.1 根源となる物語 ― 『オシャレになりたい!ピーナッツくん』の世界

ぽこピーの全ての物語は、2017年7月にYouTubeで公開が始まった一本の自主制作ショートアニメから始まりました。

この『オシャレになりたい!ピーナッツくん』は、主人公のピーナッツくんが様々な「オシャレ」な人々と出会い、冒険を繰り広げるというシュールな物語です。

このアニメは、単なるキャラクター紹介に留まらず、しばしば社会風刺やインターネットカルチャーへの批評的な視点を含んでいます。

例えば、あるエピソードでは「いらすとやがイラストレーターの仕事を奪っている」という当時の言説をテーマにしたり、また別のエピソードでは「インスタ映え」文化を風刺するなど、その内容は極めて挑戦的です。

チャンチョやコモラといった、後のVTuber活動でも重要な役割を果たす個性的なキャラクターたちも、このアニメから生まれています。

4.2 バーチャルラッパー ― 高く評価されるピーナッツくんの音楽キャリア

VTuberとしての活動と並行して、ピーナッツくんはバーチャルラッパーとして音楽シーンで確固たる地位を築いています。

これは単なるサイドプロジェクトではなく、彼のアーティストとしての一面を真摯に追求する本格的な活動です。

これまでに『False Memory Syndrome』(2020年)、『Tele倶楽部』(2021年)、『Walk Through the Stars』(2022年)、『BloodBagBrainBomb』(2024年)、そして『Tele倶楽部II』(2025年)といった複数のフルアルバムをリリースしています。

その音楽的才能はVTuberの枠を超えて広く認められており、PUNPEEさん、YOASOBIの幾田りらさん、tofubeatsさん、Daokoさん、藤井隆さんといった日本の音楽シーンを代表する著名なアーティストとのコラボレーションを次々と実現させています。

彼の評価は国内に留まりません。2024年にリリースされたアルバム『BloodBagBrainBomb』に収録されている楽曲「Wha U Takin Bout」は、世界的に権威のある音楽メディア「Pitchfork」の「2024年夏のベストソング26選」に選出されました。

その中で彼は「日本のデジコアシーンの事実上のマスコット」と評され、国際的な注目を集めるに至っています。

原点であるアニメシリーズは、単に過去の作品として存在するのではなく、現在進行形のぽこピーユニバースの「設定供給源(ロア・エンジン)」として機能しています。

アニメのキャラクターや出来事はVTuberコンテンツにも頻繁に引用され、例えばアルバム『BloodBagBrainBomb』ではアニメのシーズン1から音声がサンプリングされるなど、全ての活動が地続きであることが示されています。

この構造は、アニメを兄ぽこさんの創造性を試すための「実験場(サンドボックス)」として位置づけています。

風刺やシュールな表現など、VTuberのフォーマットでは難しい挑戦をアニメで行い、そこで培われた独自のコメディセンスや世界観がVTuberコンテンツに還元されることで、他に類を見ない深みと個性を生み出しているのです。

この複数のプラットフォームを横断する物語戦略は、ぽこピーというブランド全体を豊かにし、すべてのコンテンツに触れる熱心なファンに深い満足感を与えています。

ピーナッツくんの音楽家、VTuber、そしてアニメキャラクターという三つの顔は、それぞれが独立しているのではなく、一つの複雑で洗練された芸術的プロジェクトの異なる側面として、見事に統合されているのです。

第5節:聖夜の伝統 ― 「刀ピークリスマス」の物語

ぽこピーの活動の中でも、特にVTuberコミュニティ全体に大きな影響を与えているのが、にじさんじ所属のVTuber・剣持刀也さんとのコラボレーション、通称「刀ピー」であり、その集大成が毎年クリスマスに行われる「刀ピークリスマス」です。

5.1 「刀ピー」の誕生

コラボ名「刀ピー」は、剣持也さんの「刀」とピーナッツくんの「ピー」を組み合わせたものです。

二人の関係性の始まりは、2018年5月に開催された第一回の「ぽんぽこ24」にまで遡ります。

このイベント内で、剣持刀也さんは「名探偵ピナン あご事件」という企画にゲストとして出演し、これが二人の最初の共演となりました。

この出会いをきっかけに、二人は様々な企画で共演を重ね、ヒップホップという共通の趣味や、独特の comedic timing を通じて、ファンに広く知られる特別な関係性を築き上げていきました。

5.2 刀ピークリスマス ― 愛される茶番劇

2018年以降、毎年12月25日の夜に剣持刀也さんのチャンネルで二人のコラボ生配信を行うことが恒例行事となりました。

今や「VTuber界の冬の風物詩」とまで呼ばれるこの企画は、「偉大なるワンパターン」と称される鉄板の構成を持っています。

その基本的な流れは、ピーナッツくんが剣持刀也さんに対して過剰で一方的な愛情表現を行い、それを剣持さんが「キモい」「やめろ」といった辛辣なツッコミで一蹴するというものです。

この安定したやり取りを軸に、手相占いや嘘の新番組告知といったフリーダムな企画が展開され、毎年多くの視聴者を楽しませています。

配信の最後には、「Cパート」と呼ばれる特別な時間帯が設けられています。

これは、配信が「公式に」終了した後、「機材トラブルで配信が切れ忘れた」という体で続けられるパートです。

ここでは、ピーナッツくんを演じる兄ぽこさんが「ピーナッツくんのご主人様」として登場し、剣持さんとより素に近いリラックスした雰囲気で会話を交わします。

このパートは、二人の間の本物の友情が垣間見える貴重な時間として、ファンから深く愛されています。

5.3 バイラルヒットするテーマソング ― 一つの文化現象

「刀ピークリスマス」の最大の目玉であり、ハイライトと言えるのが、配信内で毎年披露されるピーナッツくん制作のオリジナルテーマソングです。

この楽曲は、剣持刀也さんへの「愛」を歌ったものですが、その「キモい」と評される歌詞とは裏腹に、音楽的なクオリティは極めて高く、洗練されたプロダクションで毎年視聴者を驚かせます。

これらのテーマソングは、単なる配信企画の一要素に留まらず、それ自体が一個の文化現象となっています。

特に2022年に発表された「刀ピークリスマスのテーマソング2022」は、TikTokでその特徴的なダンスが爆発的に流行。

数多くの著名人やインフルエンサーが「踊ってみた」動画を投稿し、VTuberファン層を遥かに超えて日本のポップカルチャー全体を巻き込むバイラルヒットを記録しました。

この曲のミュージックビデオはYouTubeで1000万再生を優に突破し、この企画の影響力の大きさを世に知らしめました。

配信タイトルテーマソングの楽曲名主な特徴と反響
2019年とうぴークリスマス2019とうピークリスマスのテーマソング高品質なMVとコミカルな歌詞で、毎年恒例となるテーマソングのフォーマットを確立しました。
2020年とうぴークリスマス2020刀ピークリスマスのテーマソング2020音楽性の高さを維持し、企画のブランドイメージをさらに強固なものにしました。
2021年刀ピークリスマス2021刀ピークリスマスのテーマソング2021音楽スタイルと歌詞のテーマ性をさらに洗練させ、ファンの期待に応えました。
2022年刀ピークリスマス2022刀ピークリスマスのテーマソング2022副題は「刀ピーOVERDOSE」。TikTokでダンスがバイラルヒットし、VTuber界隈を超えた社会現象となりました。
2023年刀ピークリスマス2023刀ピークリスマスのテーマソング2023前年の大成功による高い注目の中、同時接続者数21万人以上を記録しました。
2024年刀ピークリスマス2024刀ピークリスマスのテーマソング2024
刀とピー、ピーと刀 きんぴら729万 再生

この「刀ピークリスマス」は、個人勢のトップランナーであるピーナッツくんと、企業勢のトップライバーである剣持刀也さんという、異なる立場の二人が生み出す相乗効果の最たる例です。

同時接続者数は年々増加し、2023年には21万人、2024年には28万人を記録するなど、その規模は大手企業の公式イベントに匹敵します。

このイベントは、ピーナッツくんにとっては自身の音楽的才能を巨大なファンベースに披露する絶好の機会となり、剣持さんにとっては業界全体からリスペクトされるエンターテイナーとしての地位を確固たるものにする場となっています。

この協力関係は、ピーナッツくんが創造的なコンテンツを提供し、剣持さんがそれを最大限に活かすプラットフォームと完璧なリアクションを提供するという、理想的な共生関係に基づいています。

そして何よりこのイベントは、VTuber業界において「企業」と「個人」という垣根が、本物の友情と創造的な化学反応の前では意味をなさないことを象徴する、強力な文化イベントとして機能しているのです。

結論:独立精神の揺るぎない魅力

本記事で分析してきたように、ぽこピーの成功は決して偶然の産物ではありません。

それは、現代のエンターテインメント業界において、独立したクリエイターが如何にして巨大な文化的影響力を持つことができるかを示す、一つの完成されたモデルケースです。

彼らの成功は、以下の四つの柱によって支えられています。

  1. オーセンティシティ(本物であること): 彼らのコンテンツの根底には、実の兄妹という揺るぎない関係性があります。この本物の絆が、彼らのユーモアに安心感と深みを与え、視聴者との間に強い共感を生み出しています。
  2. 差別化戦略: ライブ配信が主流のVTuber業界において、あえて手間のかかる「動画勢」としての道を選び、バーチャルとリアルを融合させた独自のコンテンツフォーマットを確立しました。これにより、大手企業との直接的な消耗戦を避け、代替不可能な独自のブランドを築き上げました。
  3. 卓越した創造性: アニメーション制作から音楽活動に至るまで、常に高い芸術性と野心を持って創作に取り組んでいます。特にピーナッツくんの音楽は、国内のトップアーティストと肩を並べ、国際的な評価を得るまでに至っており、彼らの活動が単なるエンターテインメントに留まらないことを証明しています。
  4. コミュニティへの貢献: 「ぽんぽこ24」や「刀ピークリスマス」といった企画を通じて、彼らは自らのプラットフォームを業界全体の交流と発展のために開放してきました。これにより、彼らは単なる人気者ではなく、コミュニティから尊敬されるリーダーとしての地位を確立しました。

ぽこピーの歩みは、明確なビジョンと絶え間ない努力があれば、組織的な後ろ盾がなくとも、エンターテインメントの世界で確固たる地位を築き、文化を形成する力となり得ることを力強く示しています。

彼らは、「VTuberとは何か」という定義そのものを拡張し続ける、現代の独立クリエイター精神の最も輝かしい体現者の一組と言えるでしょう。

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