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吉田いをん(いよちゃん)「変身」の記号論とアイデンティティ・パフォーマンス

1. 序論:デジタルネイティブ世代における「リアリティ」の再定義

1.1 調査の背景と目的

現代の日本のソーシャルメディア環境、特にTikTokやYouTubeといった動画プラットフォームにおいて、「吉田いをん(愛称:いよちゃん)」というクリエイターは、単なる「美容系インフルエンサー」の枠組みを超えた、極めて特異かつ重要な文化的地位を確立しています。

彼女のコンテンツの核心は、素顔(すっぴん)から理想的な「可愛い」への劇的な変貌を遂げる**「変身(Transformation)」**のプロセスそのものにあります。

本記事は、吉田いをん氏のプロフィール、キャラクター形成、「吉田いよひろ」との関連性、ネタの源泉(元ネタ)、素顔の実態、そしてその核となるメイクアップ技術について、利用可能なデータと観察に基づき包括的に分析するものです。

特に、彼女がどのようにして「吉田いよひろ」というペルソナと「吉田いをん」という理想像を使い分け、Z世代を中心とする視聴者との強固なエンゲージメントを築いているのかを、社会学的および心理学的な視座も交えて深掘りします。

本調査の目的は、単に事実を羅列することではなく、彼女の活動が示唆する「ルッキズム(外見至上主義)」への適応戦略と、「自己演出」の高度な技術体系を解明することにあります。

1.2 調査対象と範囲

  • 対象: 吉田いをん(Yoshida Iwon)および関連する人格(吉田いよひろ)。
  • 分析媒体: YouTube(メインチャンネル、サブチャンネル)、TikTok、Instagram、Twitter(現X)。
  • 主要テーマ: プロフィール分析、ペルソナの二重性、メイクアップ・エンジニアリング、文化的背景(元ネタ)。

2. プロフィール詳細分析:吉田いをんの基礎データと身体性

まず、吉田いをん氏の人物像を構成する客観的なプロフィールデータについて整理し、その数値や事実が持つ意味を分析します。

彼女の属性は、現代の若者文化を象徴する要素で満たされています。

2.1 基本的バイオグラフィーと属性データ

公開情報およびソーシャルメディア上の発言に基づき、吉田氏のプロフィールを以下のように統合・整理しました。

項目データ詳細分析・備考
活動名吉田いをん (Yoshida Iwon)メインの活動名。愛称は「いよちゃん」。K-POPアイドル的な響きを持つ。
別名義吉田いよひろ (Yoshida Iyohiro)素顔やネタ動画で使用される名義。「いよひろ」は男性的な響きを意図している。
生年月日2000年12月26日いわゆる「ミレニアム世代」の終わりであり、Z世代の中心層。2025年時点で24-25歳。
出身地大阪府コンテンツ内で自然に出る関西弁や、高いトークスキル、オチをつける構成力に地域性が反映されている。
身長161 cm日本人成人女性の平均(約158cm)よりやや高く、ファッションモデルとしても映える身長。
血液型B型動画内で公言。マイペースなキャラクター付けとして機能することもある。
職業クリエイター / インフルエンサー大学生としての生活と言及されることもあったが、現在は専業クリエイターとしての側面が強い。
兄弟構成弟がいることを公言「弟に似ている」という自虐ネタが頻出する。

2.2 身体的特徴と「体重」のナラティブ

吉田氏のキャリアにおいて特筆すべき点は、体重の変動を隠さず、むしろコンテンツの一部として積極的に開示・昇華させている点です。

  • 体重の変動幅: 過去の動画において、40kg台前半の「シンデレラ体重」期から、50kg台後半〜60kg台の「増量期」まで、幅広い体重推移を経験していることを明かしています。
  • ボディポジティブの逆説: 彼女は単に「ありのままの自分」を肯定するだけでなく、「太ってしまった自分」を「吉田いよひろ」というキャラクターの強化(面白さの増幅)に利用し、同時に「痩せて可愛くなる」というダイエット企画をエンタメ化します。この姿勢は、ルッキズムに疲弊した視聴者に対し、「完璧でなくても良いが、努力する過程は尊い」という現実的なメッセージとして機能しています。

2.3 所属と活動スタンス

彼女は、特定の巨大芸能事務所による厳格な管理下にあるというよりは、クリエイター個人の裁量が大きい活動スタイルをとっていると見受けられます。

これは、彼女のコンテンツが持つ「生々しさ」や「際どいネタ(毒舌など)」を可能にしている要因の一つです。


3. 「吉田いよひろ」と「吉田いをん」の相関関係:ペルソナの二重構造

関心が極めて高い「吉田いよひろ」と「吉田いをん」の関係性について、その構造的意味合いを解明します。

これは単なる「すっぴん」と「メイク後」の違いではなく、意図的に設計された**「キャラクターの演じ分け」**です。

3.1 「吉田いよひろ」:リアリティのアンカー

「吉田いよひろ」は、彼女の「素(Before)」の状態、あるいはコメディリリーフとしての人格を指します。

  • 視覚的記号:
    • すっぴん: 肌のムラ、目の大きさ、眉毛の生え方などを隠さない。
    • 眼鏡: 度数の強い眼鏡を使用し、目が小さく見える効果(レンズの屈折)をあえて強調する。
    • 服装: ジャージ、伸びたTシャツ、ボサボサの髪など、「干物女」的記号を纏う。
  • 行動様式:
    • 乱暴な言葉遣い、変顔、奇行、オタク特有の早口。
    • 「弟に似ている」「男兄弟のよう」と自称し、女性性を意図的に排除する。
  • 名前の由来: 「いよひろ」という名前は、「いよ(本名の一部と推測される)」に、男性名によく使われる止め字「ひろ(例:たかひろ、まさひろ)」を接続させた造語と考えられます。これにより、「可愛くない状態」「男性的な状態」を聴覚的にも印象付けています。

3.2 「吉田いをん」:理想の具現化

一方、「吉田いをん」は、メイクアップとスタイリングによって完成された「After」の状態です。

  • 視覚的記号:
    • フルメイク: 後述する高度なメイク技術による「整形級」の変身。
    • ファッション: 量産型、地雷系、あるいは韓国アイドル風のトレンドを取り入れた装い。
  • 名前の由来: 「いをん(Iwon)」は、K-POPカルチャー(例:IZ*ONEのウォニョンなど)を連想させる「ウォン」という響きを採用していると推察されます。「いよひろ」という土着的な名前から、「いをん」という無国籍・現代的な名前への変化は、彼女の変身願望と美意識の方向性を象徴しています。

3.3 関係性の力学:ギャップ・エコノミー

この二つの人格の差異(ギャップ)こそが、彼女の経済的価値の源泉です。

  1. 緩和(Relief): 視聴者は「いよひろ」を見て、「可愛いインフルエンサーも裏ではこうなんだ」と安心し、親近感を抱きます。
  2. 緊張と解決(Tension & Resolution): 「いよひろ」から「いをん」への変身動画は、物語的なカタルシスを提供します。不完全なものが完全なものへと昇華されるプロセスは、視聴者に快感を与えます。

4. 「元ネタ」と文化的背景:何を模倣し、何を風刺しているのか

吉田氏のコンテンツには、明確な「元ネタ」や、参照しているサブカルチャーが存在します。

これらを理解することで、彼女の動画の解像度が飛躍的に高まります。

4.1 「量産型」と「地雷系」の徹底的な観察

彼女の「あるあるネタ」やメイクスタイルの根底にあるのは、日本の若年層女性特有のカルチャーである「量産型」と「地雷系」への深い理解と観察です。

  • 量産型女子: ジャニーズや男性アイドルのファンに多く見られる、ピンクや白を基調としたフリルやリボンの多いファッション。没個性を恐れず「推しに好かれるための可愛さ」を追求するスタイル。
  • 地雷系女子: 「病みかわいい」をテーマにし、黒やダークな色調、ゴシック要素を取り入れたスタイル。精神的な不安定さ(メンヘラ)をファッションとして昇華させる傾向がある。

吉田氏は、これらの属性を持つ女性たちの**「話し方」「SNSでの振る舞い」「マウントの取り方」**などを驚異的な精度で模倣します。

  • 具体例:
    • カフェで映える写真を撮るために必死な姿。
    • 「推し」について語る時の早口と情緒不安定さ。
    • 裏垢(SNSの裏アカウント)で吐き出す毒舌。

4.2 ネタの構造:「共感」と「揶揄」の境界線

彼女の「元ネタ」は、特定の個人というよりも、**「歌舞伎町」「原宿」「コンセプトカフェ」**などの空間に生息する人々の集合的無意識(ステレオタイプ)です。

彼女の模倣が「悪口」にならず「エンタメ」として成立している理由は、彼女自身がそのカルチャーを愛し、自身もそのメイクやファッションを実践している当事者性を持っているからです。

「いじっている」ようでいて、実は「自分自身も含めた自虐」であるという構造が、炎上を防ぎ、共感を呼んでいます。

4.3 名前の「元ネタ」に関する補足考察

「吉田いをん」という名前自体の元ネタについては、前述の「K-POP由来説」に加え、大手流通グループ「イオン(AEON)」との関連を推測する声もあります。

「イオンモールに集まるような地方の量産型女子」というニュアンスを含んでいる可能性も否定できませんが、本人が公式に語った有力な説としては、やはり「いよひろ(男っぽい)」⇔「いをん(韓国風・今っぽい)」の対比構造が最も説得力を持ちます。


5. 素顔(スガオ)の真実:コンプレックスの開示と戦略的脆弱性

「詐欺メイク」の使い手として知られる吉田氏ですが、その前提となる「素顔」についての情報は、彼女の信頼性を担保する最も重要な資産です。

5.1 すっぴんの解剖学的特徴

吉田氏は動画内で、フィルターなしのすっぴんを頻繁に公開しています。客観的に分析される特徴は以下の通りです。

  • 目元: 本来は一重、あるいは奥二重に近い形状です。瞼(まぶた)の脂肪がやや厚めで、これがメイクによる「二重形成」の劇的な効果を生むキャンバスとなっています。彼女自身、「目が小さい」「目つきが悪い」と自虐的に語りますが、これはメイクの余白(伸び代)が大きいことを意味します。
  • 輪郭: 体重変動の影響を受けやすい丸顔あるいはベース型の傾向があります。顎のラインや頬の肉付きを気にしている様子が見受けられ、これが後述する「余白埋め」メイクへの執着に繋がっています。
  • : 日本人に一般的な、やや低めで丸みのある鼻筋。これをノーズシャドウで高く、鋭く見せる技術が彼女の真骨頂です。

5.2 「ブサイク」という自己演出

彼女が自身の素顔を「ブサイク」「吉田いよひろ」と呼んで卑下するのは、高度な防衛戦略です。

  1. ハードルを下げる: 最初に「最底辺」を見せることで、メイク後の加点評価を最大化します。
  2. アンチ封じ: 自分で自分を「ブサイク」と呼ぶことで、他者からの批判を先回りして無効化します。
  3. 希望の提供: 「元が良いから可愛い」という遺伝子決定論を否定し、「技術と努力で人は変われる」というメリトクラシー(能力主義)的な美のナラティブを提示します。これにより、容姿に悩む層からの熱狂的な支持を獲得しています。

6. 吉田いをん流メイクアップ・メソッド:変身の工学

本レポートの核心部分である、吉田いをん氏のメイク方法について、技術的かつ理論的に詳細に分析します。

彼女のメイクは、単なる「化粧」ではなく、**「錯視を利用した顔面構造の再構築(リエンジニアリング)」**です。

6.1 コンセプト:中華風(チャイボーグ)× 量産型のハイブリッド

彼女のメイクスタイルは、日本の「量産型・地雷系」の持つ「守ってあげたい可愛さ」と、中国のインフルエンサー(ワンホン)に見られる「完璧な陶器肌と強いコントゥアリング」の技術を融合させたものです。

6.2 メイク手順とテクニック詳細解説

以下の表は、彼女の代表的なメイク工程を段階別に整理したものです。

工程重点ポイント使用テクニック・理論
1. カラコン黒目の拡張「着色直径」の重視。13.8mm〜14.5mm程度の大きめのレンズを使用し、メイク前の段階で「宇宙人」に見えるほど黒目を大きくすることで、後の濃いアイメイクとのバランスを取る。
2. ベースメイク白肌・陶器肌トーンアップ下地(紫や緑)を使用し、肌の黄色味を徹底的に消す。ファンデーションは明るめを選び、首まで塗布して顔だけ浮くのを防ぐ。マットな仕上がりを好み、パウダーで質感を均一化する。
3. アイメイク(二重)二重幅の拡張アイプチ(皮膜式・接着式)やアイテープを駆使。本来の二重ラインより大幅に上にラインを作り、瞼を物理的に持ち上げる。絆創膏を切って使用するなどの「裏技」も多用。
4. アイメイク(拡張)全方位拡大**「目頭切開ライン」で内側に、「垂れ目ライン」**で外側下方に目を拡張。アイラインは目尻から数ミリ〜1センチ近くはみ出させて描く。
5. 涙袋(ナミダブクロ)中顔面短縮吉田メイクの最重要工程。影用のライナーで本来の涙袋より下に影を描き、コンシーラーとラメでぷっくり感を捏造する。これにより目から口までの距離(中顔面)が短く見え、小顔・童顔効果が生まれる。
6. シェーディング骨格捏造ノーズシャドウ:眉頭から鼻筋へ濃く入れ、鼻先にはV字を入れて尖らせる。フェイスライン:エラを削るように大胆に影を入れ、卵型の輪郭を擬似的に作る。
7. 人中短縮美人黄金比鼻の下(人中)に影を入れ、上唇の山にハイライトを入れることで、鼻と唇の距離を短縮して見せる。間延びした印象を消すテクニック。
8. まつ毛束感(アイドル風)つけまつげ、またはマスカラを塗った後にピンセットで数本ずつ束ねる**「束感まつげ」**を作成。目の縦幅を強調し、ドール感を演出する。

6.3 特筆すべきツールとコスメ選び

吉田氏は、高級ブランド(デパコス)だけでなく、**CANMAKE(キャンメイク)、CEZANNE(セザンヌ)、KATE(ケイト)**といった日本のドラッグストアコスメ(プチプラ)を多用します。

  • 再現性の高さ: 視聴者が真似しやすい価格帯のアイテムを使うことで、メイク動画の実用性を高めています。
  • こだわりの筆: 付属のチップではなく、専用のメイクブラシを使用することを推奨しており、これが繊細なシェーディングやライン描画の精度を支えています。

6.4 「余白管理」の美学

彼女のメイク理論を一言で表すなら**「顔の余白を埋めること」**です。

日本人の顔は平坦で余白(パーツのない部分)が多い傾向にありますが、彼女はすべてのパーツを「大きく」「中心に寄せる」あるいは「外に広げる」ことで、この余白を物理的・視覚的に埋め尽くします。

アイラインを長く引くのも、チークを広範囲に入れるのも、すべては「小顔に見せる=顔の余白を減らす」という目的のために計算されています。


7. コンテンツ戦略とエンゲージメント分析

なぜ吉田いをん氏はこれほどまでに支持されるのでしょうか。

その理由は、メイク技術だけでなく、彼女のコンテンツ構成力とセルフプロデュース能力にあります。

7.1 ショート動画の文法への適応

TikTokやYouTube Shortsにおいて、彼女は以下のメソッドを確立しています。

  • 0秒目のインパクト: 動画の冒頭に必ず「衝撃的なブサイク顔(変顔)」や「奇妙なダンス」を配置し、スワイプしようとする指を止めさせます。
  • テンポと音ハメ: 流行音源に対するリップシンク(口パク)の精度が高く、動きのキレも良いため、見ていて気持ちの良いリズムが生まれます。
  • ビフォーアフターの落差: 視聴者は「あの変な動きをしていた人が、こんなに可愛くなるなんて」という驚きを求めて、最後まで動画を視聴します(高い視聴維持率)。

7.2 「あるある」による共感の獲得

前述の「量産型あるある」などは、視聴者にとっての「共通言語」です。

  • コメント欄のコミュニティ化: 視聴者が「わかる!」「私の友達にもいる!」とコメントし合うことで、動画が活性化します。
  • リクエスト文化: 「次は〇〇な女をやってください」というリクエストに応えることで、双方向のコミュニケーションを維持しています。

7.3 インフルエンサーとしての進化

初期は「詐欺メイク」の一発芸的な側面が強かったものの、現在は以下のよう活動の幅を広げています。

  • Vlog: ダイエットの記録や日常を公開し、人間性へのファンを増やす。
  • コラボ: 他のYouTuberやインフルエンサーとコラボし、「吉田いよひろ」キャラで場を回すMC的な能力も発揮。
  • ファッションリーダー: 自身のブランドプロデュースや、アパレル紹介など、ファッションアイコンとしての地位も確立しつつあります。

8. 結論:吉田いをんが示す「編集可能な自己」の可能性

本調査の結果、吉田いをん氏は単なるメイク系TikTokerではなく、「自己の多面性」を武器にする高度なパフォーマーであることが明らかになりました。

  1. プロフィールの戦略性: 20代前半という年齢、大阪という出自、身長や体重といった身体データを、すべて「親近感」と「憧れ」のバランス調整に利用しています。
  2. ペルソナの意図的分離: 「吉田いよひろ」という道化(クラウン)を用意することで、批判を回避しつつ、「吉田いをん」という理想像(ヒロイン)をより輝かせる構造を作り出しています。
  3. 文化の翻訳者: 量産型・地雷系といったサブカルチャーを、外部に向けてわかりやすく、かつ面白おかしく翻訳して伝える役割を果たしています。
  4. メイク技術の民主化: 「可愛くなること」は生まれつきの特権ではなく、技術と知識、そして努力によって獲得可能な「スキル」であることを証明し続けています。

将来の展望

デジタルネイティブ世代にとって、「顔」とは生まれ持った運命ではなく、アプリの加工やメイク技術によって編集可能な「インターフェース」です。

吉田いをん氏は、その「編集作業」の過程そのものをエンターテインメントへと昇華させました。

今後、彼女が年齢を重ねるにつれて、どのような新しい「変身」や「価値観」を提示していくのか。

「量産型」を卒業した後の「大人版・吉田いをん」の展開や、メイク技術を超えたライフスタイル提案など、その活動の拡張性は計り知れません。

彼女は、コンプレックスを抱えるすべての人々に対し、「なりたい自分になっていい」という強力な肯定のメッセージを発信し続けるでしょう。

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