BABYMETAL

英国ロンドン・O2アリーナにおけるBABYMETALの軌跡と展望

1. 序論:BABYMETALとロンドン「聖地」への道程

1.1 調査の背景と目的

本記事は、日本のメタルダンスユニットBABYMETALと、英国ロンドンの象徴的な多目的アリーナである「The O2 Arena(以下、O2アリーナ)」との関係性について、包括的かつ詳細に分析を行うものです。

BABYMETALにとって英国は「第二の故郷」とも称される重要な市場であり、その中でも収容人数約20,000人を誇るO2アリーナは、アーティストとしての格を示す到達点の一つとして位置づけられています。

本調査では、2016年にレッド・ホット・チリ・ペッパーズ(Red Hot Chili Peppers、以下RHCP)のサポートアクトとして初めて同会場のステージに立った時点から、2025年5月に実現した日本人グループ初となる単独ヘッドライン公演、そして2026年以降に予定されている関連リリースやフェスティバル出演に至るまで、約10年にわたる軌跡を詳らかにします。

これにより、BABYMETALがいかにして異色のサブカルチャー・アイコンから、世界的なアリーナ・ロック・アクトへと変貌を遂げたのか、その進化の過程を浮き彫りにすることを目的とします。

1.2 O2アリーナの会場特性と重要性

ロンドン・グリニッジ半島に位置するO2アリーナは、旧ミレニアム・ドームの内部に建設された世界屈指の屋内アリーナです。

最大収容人数20,000人という規模は、英国屋内会場としては最大級であり、マディソン・スクエア・ガーデン(ニューヨーク)やさいたまスーパーアリーナ(日本)と並び、世界中のトップアーティストが目指す「聖地」として知られています。

BABYMETALの歴史において、ロンドンでは「O2 Academy Brixton(約5,000人)」や「OVO Arena Wembley(旧ウェンブリー・アリーナ、約12,500人)」での公演実績がありましたが、O2アリーナでの単独公演はそれらを凌駕する最大規模の挑戦であり、商業的成功と芸術的評価の両面において極めて重要なマイルストーンとなります


2. 第1章:2016年 - 巨人の肩に乗って(THE GETAWAY WORLD TOUR)

BABYMETALとO2アリーナの物語は、2016年12月、ロック界のレジェンドであるRHCPの英国ツアー「The Getaway World Tour」への抜擢から始まりました。

2.1 RHCPサポートアクトへの招聘と背景

2016年当時、BABYMETALは2ndアルバム『METAL RESISTANCE』をリリースし、ウェンブリー・アリーナでの日本人初単独公演を成功させるなど、世界的な注目を集めていました。

その勢いはロック界の重鎮たちの目にも留まり、RHCPからの直接のオファーにより、彼らの英国ツアーのスペシャル・ゲストとして帯同することが決定しました。

このツアーへの参加は、BABYMETALにとって「メタルファン以外の層」へのアピールという大きな戦略的意味を持っていました。

RHCPのファン層は幅広く、必ずしもメタルや日本のアイドル文化に親和性が高いわけではありません。

そのような「完全アウェー」とも言える環境下で、O2アリーナという巨大な空間をどのように掌握するかが最大の課題でした。

2.2 公演詳細とセットリスト分析

2016年のO2アリーナ公演は、以下の日程で行われました。

  • 日程: 2016年12月5日(月)、6日(火)、18日(日)
  • 会場: The O2 Arena, London
  • 役割: サポートアクト(オープニングアクト)
  • 動員: 各日約17,000〜18,000人(RHCP公演として)

サポートアクトとしての持ち時間は約40分程度と限られており、観客の心を短時間で掴むための「攻撃的かつキャッチー」なセットリストが組まれました。

表1:2016年12月 O2アリーナ(サポートアクト)標準セットリスト

曲順楽曲名特徴と狙い
1BABYMETAL DEATH歌詞がほぼ「DEATH」のみのデスメタル曲。自己紹介としてのインパクトを重視。
2あわだまフィーバードラムンベースとメタルの融合。キャッチーなダンスでポップさをアピール。
3Catch Me If You Can神バンド(バックバンド)の超絶技巧ソロを含む。演奏力の高さでロックファンを納得させる。
4メギツネ和風メタル。日本的なオリジナリティを強調。
5KARATE当時の最新アンセム。「セイヤ、ソイヤ」の掛け声で会場の一体感を醸成。
6ギミチョコ!!バイラルヒット曲。知名度が高く、観客の興味を引くキラーチューン。

2.3 伝説の瞬間:チャド・スミスとの共演とSU-METAL生誕祭

このツアーのハイライトとなったのは、ツアーファイナルである12月18日のO2アリーナ公演です。

この日はメインボーカルであるSU-METALの19歳の誕生日(12月20日)直前でした。

RHCPのドラマー、チャド・スミス(Chad Smith)がサプライズでステージに登場しました。

彼は神バンドと同じ「白塗り(コープスペイント)」と白装束を身にまとい、Judas Priestの名曲『Painkiller』と『Breaking the Law』のスペシャル・メドレーをBABYMETALと共に演奏しました。

演奏後、チャドはSU-METALにバースデーケーキをプレゼントし、満員のO2アリーナの観客を先導して「ハッピーバースデー」を合唱しました。

この出来事は、単なるビジネスライクな前座起用ではなく、RHCP側がBABYMETALの音楽性とパフォーマンスに対し、深いリスペクトと愛情を持っていたことを如実に物語っています。

この映像はYouTubeなどを通じて拡散され、BABYMETALが「本物」としてロック界に受け入れられた象徴的なシーンとして語り継がれています。


3. 第2章:再訪への道のり(2017年 - 2024年)

2016年のサポート出演後、BABYMETALは世界的なパンデミックやメンバーの脱退、活動封印期間を経て、再びロンドンの地を目指すことになります。

3.1 会場名の混乱と整理:OVO WembleyとThe O2

BABYMETALのロンドン公演を語る際、ファンの間で頻繁に混同されるのが「ウェンブリー」と「O2」の違いです。

以下の表に整理します。

表2:ロンドンの主要アリーナ比較

会場名収容人数BABYMETALの主な実績備考
The O2 Arena約20,000人2016 (RHCPサポート)
2025 (単独ヘッドライン)
グリニッジに位置する最大規模の会場。
OVO Arena Wembley約12,500人2016 (単独・日本人初)
2023 (Sabatonゲスト)
旧ウェンブリー・アリーナ。ウェンブリー・スタジアムの隣。
O2 Academy Brixton約5,000人2014 (単独)ライブハウス規模としては最大級。

2023年4月、BABYMETALはスウェーデンのメタルバンドSabatonのツアー「The Tour To End All Tours」のスペシャル・ゲストとしてロンドンに戻ってきましたが、この時の会場は「OVO Arena Wembley」でした。

Sabatonとのツアーで欧州全土を巡り、再びアリーナクラスでのライブ感覚を取り戻したことが、2025年のO2アリーナ単独公演への重要な布石となりました。

3.2 新体制「MOMOMETAL」の誕生と『THE OTHER ONE』

2023年、サポートダンサーであった岡崎百々子が「MOMOMETAL」として正規メンバーに加入し、SU-METAL、MOAMETAL、MOMOMETALの3人体制(新生BABYMETAL)が確立されました。

コンセプトアルバム『THE OTHER ONE』を引っ提げたワールドツアーを経て、グループのパフォーマンスはより強固で洗練されたものへと進化しました。

この新体制での実績が、O2アリーナという巨大な舞台への挑戦を可能にしました。


4. 第3章:2025年 - 戴冠の時(UK & EUROPE ARENA TOUR 2025)

2025年5月30日、BABYMETALはついに「ヘッドライナー」としてO2アリーナのステージに帰還しました。

これは日本人アーティストとして史上初のO2アリーナ単独公演であり、彼女たちのキャリアにおける最大の到達点の一つです。

4.1 公演概要と商業的成功

  • 公演名: BABYMETAL UK & EUROPE ARENA TOUR 2025
  • 日程: 2025年5月30日(金)
  • 会場: The O2 Arena, London
  • 動員: 約20,000人(ソールドアウト)
  • 意義: 2016年のウェンブリー・アリーナ公演を超え、海外単独公演としては過去最大規模の動員を記録しました。チケットの完売は、彼女たちの人気が英国において一過性のものではなく、強固なファンベースに支えられたものであることを証明しました。

4.2 ゲスト・アクトと「METALVERSE」の拡張

本公演は、単なるワンマンライブの枠を超え、BABYMETALがキュレーターとなって現代の音楽シーンを提示するような構成となりました。

オープニングアクトには以下の2組が招聘されました。

  1. Bambie Thug(バンビー・サグ): アイルランド出身。ユーロビジョン・ソング・コンテストでのシアトリカルでダークなパフォーマンスが話題となり、BABYMETALの持つ演劇性との親和性が高く評価されました。
  2. Poppy(ポピー): アメリカ出身。YouTube発のパフォーマンスアートからメタルへと接近した経歴を持ち、かつてはBABYMETALと比較されることもありました。彼女の参加は、ジャンルの境界線を破壊する象徴的な意味を持ちました。

4.3 プロダクションと演出:アリーナ・スペクタクル

2025年のO2アリーナ公演では、会場の巨大さを活かした壮大なプロダクションが展開されました。

  • ステージデザイン: ステージ後方には巨大なスクリーンが設置され、油圧式のリフトでメンバーが高い位置に上昇する演出が多用されました。また、アリーナのスタンディングエリアを縦断する長い花道(ランウェイ)が設置され、後方の観客とも物理的な距離を縮める工夫がなされていました。
  • パイロテクニック: 音楽メディア『Louder』のレビューで「月まで持ち上げるほどのパイロ(火薬)」と表現された通り、炎や花火が惜しみなく使用されました。特に新曲『Song 3』では、カウントに合わせて巨大な炎の柱が吹き上がる演出があり、視覚的なインパクトは絶大でした。
  • 音響と演奏: 神バンド(Anthony Barone, CJ Masciantonio, Chris Kelly, Matt Deis)による演奏は、以前にも増してヘヴィかつタイトであり、2万人の会場を揺るがす音圧を提供しました。

4.4 2025年5月30日 セットリスト詳細分析

この日のセットリストは、ニューアルバム『METAL FORTH』(2025年リリース)からの新曲と、過去の代表曲がバランスよく配置され、さらに豪華なゲストとのコラボレーションが盛り込まれた「集大成」かつ「未来志向」の内容でした。

表3:BABYMETAL O2アリーナ公演(2025年5月30日)セットリスト

曲順楽曲名ゲスト/コラボ解説
1BABYMETAL DEATH-復活の狼煙。伝統的なオープニングで会場の電圧を一気に上げる。
2メギツネ-和の要素で会場を染め上げる。
3PA PA YA!!F.HERO (Backing Track)タオル回し曲。アリーナ全体が回転するタオルで埋め尽くされる。
4BxMxC-海外人気の高いトラップメタル曲。重低音がアリーナに響く。
5METALI!!Tom Morello (Backing Track)2023年のヒット曲。「ワッショイ」の掛け声で一体感を作る。
6Kon! Kon!Bloodywood新曲。インドのフォークメタルバンドBloodywoodとのコラボ。多国籍なリズム。
7Sunset KissPolyphia新曲・世界初披露。テクニカルなギターとエモーショナルなメロディが特徴
8Song 3Slaughter To Prevail新曲。デスコアバンドとのコラボ。強烈なブレイクダウンを持つ。
9ヘドバンギャー!!-SU-METALがマイクスタンドを操り、観客を煽る。
10RATATATAElectric Callboy (Backing Track)2024年の世界的バイラルヒット。会場が巨大なダンスフロアと化す
11ギミチョコ!!-知名度No.1の代表曲。モッシュピットが最大化する。
12from me to uPoppy (Live Appearance)Poppy本人がステージに登場。互いの「カワイイ」と「狂気」が融合した歴史的共演
13KARATE-観客全員がスマホライトを点灯する演出も。
14イジメ、ダメ、ゼッタイ-スピードメタルの名曲。「ダメジャンプ」で会場が揺れる。
15Road of Resistance-巨大な「ウォール・オブ・デス」が発生。大団円のフィナーレ。

特筆すべきは、Polyphia(ポリフィア)をフィーチャーした新曲『Sunset Kiss』の世界初披露です。

この楽曲はプログレッシブで洗練されたサウンドを持ち、BABYMETALの新たな音楽的側面を提示しました。

また、Poppyとの共演は、インターネット・カルチャーから生まれた2つの特異点が交差する瞬間として、大きな話題を呼びました。


5. 第4章:『METAL FORTH』とメディアの評価

5.1 ニューアルバム『METAL FORTH』のリリース

O2アリーナ公演は、BABYMETALの通算4枚目(または5枚目)のアルバム『METAL FORTH』のプロモーションにおける核心的イベントでした。

  • リリース日: 2025年6月27日(当初情報)または8月8日。
  • 特徴: 『Sunset Kiss』、『RATATATA』、『Kon! Kon!』など、O2公演で披露された楽曲が収録されています。SpiritboxやBloodywoodなど、現代メタルシーンの重要バンドとのコラボレーションが多数収録されており、BABYMETALが世界のメタルコミュニティのハブ(結節点)となっていることを示しています。

5.2 メディアとファンの反応

英国の主要音楽メディアは、この公演を絶賛しました。

  • Kerrang!: 「強度は常に最大レベルを下回らなかった(Intensity levels never dip below maximum)」と評し、PoppyやBambie Thugを含めたパッケージ全体としての完成度を高く評価しました。
  • Louder (Metal Hammer): 「抑制(Restrained)という言葉はBABYMETALには当てはまらない」とし、2万人を熱狂させた事実は、これまでの活動がこの日のための「リハーサル」だったと思わせるほどの実力を示したと論じました。
  • ファン(THE ONE)の反応: SNS上では、2016年のサポート時代を知るファンから「ついにここまで来た」という感慨の声が多く聞かれました。特に、巨大なプロダクションと、SU-METALのボーカルがアリーナの隅々まで届く圧倒的な音圧に対する称賛が相次ぎました。

6. 第5章:未来への展望(2026年 - 2027年)

O2アリーナでの成功はゴールではなく、BABYMETALの「メタルバース」拡大への新たな出発点となりました。

2026年以降の活動計画も既に具体化しつつあります。

6.1 レコード・ストア・デイ 2026とライブ盤リリース

O2アリーナ公演の熱狂をパッケージしたライブアルバムのリリースが決定しています。

  • タイトル: 『Live At The O2 Arena - Highlights』
  • 発売日: 2026年4月18日(レコード・ストア・デイ 2026)。
  • フォーマット: 12インチ・クリアヴァイナル(LP)。
  • 収録内容: 『RATATATA』や『ギミチョコ!!』など、当日のハイライトとなる楽曲が収録されます。
  • 意義: デジタル配信が主流の現在において、アナログレコードでの限定リリースは、コレクターズアイテムとしての価値を高めると同時に、物理的な「モノ」としての音楽体験を重視するメタルファンの嗜好に合致した戦略です。

6.2 Download Festival 2026への出演

2026年6月、BABYMETALは再び英国に戻り、ロックの聖地ドニントン・パークで開催される「Download Festival 2026」に出演することが発表されています

  • 日程: 2026年6月10日〜14日
  • 期待される役割: O2アリーナを完売させた実績から、メインステージ(Apex Stage)の上位スロット、あるいはセカンドステージのヘッドライナーなど、フェスティバルの主要アクトとしての待遇が予想されます。過去のDownload出演時とは異なり、今や彼女たちは「観るべき新人」ではなく「必見のヘッドライナー候補」として扱われることになります。

6.3 2027年以降のツアー展望

現時点(2026年初頭)で2027年の具体的なロンドン公演の日程は発表されていませんが、これまでの活動サイクル(2〜3年ごとのアルバムリリースと大規模ツアー)を鑑みると、2027年には『METAL FORTH』に続く新たな展開や、さらなる大規模会場(スタジアムクラスや野外フェスヘッドライナー)への挑戦が期待されます。

O2アリーナでの成功体験は、欧州全土におけるスタジアムツアーへの可能性を現実的なものとしました。


7. 結論:BABYMETALが証明した「音楽の力」

BABYMETALとO2アリーナの約10年にわたる関係性は、単なる「会場とアーティスト」の関係を超え、一つのサクセスストーリーを体現しています。

  1. 挑戦(2016年): RHCPという巨人の胸を借り、アウェーの環境で自らの存在を証明した時期。チャド・スミスとの共演は、ジャンルを超えたリスペクトの象徴でした。
  2. 開拓(2017-2023年): ウェンブリー・アリーナ公演やSabatonとのツアーを通じ、地道にファンベース(THE ONE)を拡大し、欧州市場での地盤を固めた時期。
  3. 戴冠(2025年以降): ついにO2アリーナを単独で制覇し、PoppyやPolyphiaといった同時代の才能と共鳴しながら、メタルシーンの最前線を走るリーダーとしての地位を確立しました。

O2アリーナに集まった20,000人の多様な観客――国籍、年齢、性別、そして音楽的背景の異なる人々――が、日本語で歌われるメタルの楽曲に合わせて一つになり、巨大なモッシュピットを作り出す光景は、BABYMETALが掲げる「音楽で世界を一つにする(The One)」という理念が、ロンドンの地で具現化した瞬間と言えるでしょう。

彼女たちの旅はまだ終わっておらず、O2アリーナは通過点の一つとして、今後もBABYMETALの伝説の一部であり続けることは間違いありません。


付録:データ・資料編

A. BABYMETAL ロンドン主要公演の変遷

年月日会場公演名/ツアー備考
2014年11月8日O2 Academy BrixtonBACK TO THE USA/UK TOUR 2014新曲『Road of Resistance』初披露。
2016年4月2日OVO Arena WembleyBABYMETAL WORLD TOUR 2016日本人初のウェンブリー・アリーナ単独公演。
2016年12月5-6, 18日The O2 ArenaRHCP The Getaway World Tourサポートアクト。18日はチャド・スミス共演。
2023年4月15日OVO Arena WembleySabaton The Tour To End All ToursSabatonのスペシャルゲストとして出演。
2025年5月30日The O2 ArenaUK & EUROPE ARENA TOUR 2025初のO2アリーナ単独ヘッドライン公演。2万人動員。

B. 主要関連作品

  • 映像作品: 『Live At Wembley』(2016年公演)
  • 音楽アルバム: 『METAL FORTH』(2025年リリース、O2公演の楽曲を多数収録)
  • アナログ盤: 『Live At The O2 Arena - Highlights』(2026年レコード・ストア・デイ限定盤)
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