BABYMETAL

BABYMETAL メディア戦略転換と『BABYMETALのメタラジ!』における放送内容・文化的影響

1. 序論:BABYMETALのメディア戦略におけるパラダイムシフト

1.1 背景と目的

本記事は、2010年の結成以来「METAL RESISTANCE」を掲げ、世界規模で活動を展開するメタルダンスユニットBABYMETALが、2025年1月より開始した初の冠レギュラーラジオ番組『BABYMETALのメタラジ!』(TOKYO FM / AuDee)について、その放送内容、ゲスト構成、および文化的影響を包括的かつ詳細に分析するものです。

長年、BABYMETALはその世界観を維持するために、メディア露出を厳選し、メンバー自身の肉声による詳細な発信を控える「ミステリアスな戦略」をとってきました。

しかし、本番組の開始は、その方針を大きく転換させる歴史的な分岐点となりました。

本記事では、番組のコンセプトである「メタトモ(メタルの友達)」の概念がいかにして日本のリスナー層、ひいては世界のファンベースに新たな文脈を提供したかを検証します。

1.2 分析の視座

本分析では、単なる放送リストの羅列にとどまらず、以下の3つの視点から番組の意義を解き明かします。

  1. 「隠れメタル(Kakure Metal)」層の可視化: 社会的地位のある人物や異ジャンルのクリエイターが「メタル愛」を語る場の創出。
  2. 世代とジャンルの架橋: 80年代のジャパニーズ・メタルから現代のメタルコア、ボカロPに至るまでの広範なゲスト選定による音楽史の接続。
  3. グローバル・コミュニケーションの深化: 日本国内向けコンテンツがいかにして海外ファン(The One)に受容され、翻訳・拡散されているか。

2. 番組構造とプラットフォーム戦略

2.1 放送インフラとターゲット層

『BABYMETALのメタラジ!』は、TOKYO FM(80.0MHz)をキーステーションとして、毎週土曜日19:30~19:55のプライムタイムに編成されています。

この時間帯は、コアな音楽ファンのみならず、週末の余暇を楽しむ一般リスナー層も取り込める枠であり、BABYMETALが「日本のお茶の間」への再浸透を図る意図が読み取れます。

また、音声コンテンツプラットフォーム「AuDee(オーディー)」や「Apple Podcast」でのアーカイブ配信を行うことで、放送エリア外や海外のリスナーへのアクセスを担保しています。

これは、時間と場所を選ばずにコンテンツを消費する現代の聴取習慣に即した戦略であり、グローバルなファンベースを持つBABYMETALにとって必須のインフラと言えます。

2.2 コンセプト:「メタトモ」の定義とその射程

番組の中核を成すコンセプトは「メタトモの輪を広げる」ことです。

番組における「メタトモ」の定義は極めて流動的かつ包括的です。

  • ガチメタル(Gachi Metal): 公然とメタルを愛好し、その文脈で活動するアーティスト(例:SiM, Paledusk)。
  • 隠れメタル(Kakure Metal): 普段の活動からはメタル愛好家であることが見えにくいが、実は熱狂的なファンである著名人(例:高市早苗、キタニタツヤ)。

この二層構造のアプローチにより、番組は「メタルファンのための番組」という閉じたコミュニティから脱却し、「意外な人物の意外な一面」を楽しむエンターテインメント番組としての地位を確立しました。

3. 放送クロニクル:2025年上期(1月~6月)の展開

3.1 始動とアイデンティティの提示(1月)

放送回:(2025年1月4日)

記念すべき初回放送では、SU-METAL、MOAMETAL、MOMOMETALの3名のみが出演し、番組の方向性が示されました。

2024年の活動振り返りとともに、今後どのようなゲスト(メタトモ)を呼びたいかという展望が語られました。

この回で重要だったのは、メンバー自身が「ラジオという媒体でどう振る舞うか」を模索する姿がそのまま放送された点です。

ライブパフォーマンスにおける「神格化」された姿とは対照的な、等身大の20代女性としての語り口は、長年のファンにとっても新鮮な驚きを与えました。

3.2 現代ポップスとの融合:キタニタツヤ篇(2月~3月)

放送日:2025年2月22日、3月1日、3月8日

ゲスト:キタニタツヤ

番組初の長期ゲストとして招かれたのは、シンガーソングライターのキタニタツヤ氏でした。

放送回テーマ・詳細内容分析・洞察
第1週「生半可なことは言えない」緊張感オファーを受けた際、キタニ氏はメタルというジャンルの「純粋性」に対する畏怖から緊張していたことを吐露しました。これは、BABYMETALがメタルシーンにおいて「真正性」を問うリトマス試験紙のような存在であることを示唆しています。
第2週ボカロPとしての出自とメタルデスクトップミュージック(DTM)とメタルの親和性について議論が展開されました。複雑な構成や高速なBPMといった音楽的共通項が、ジャンルを超えた共感を生みました。
第3週クリエイター視点の楽曲分析キタニ氏独自の視点でBABYMETALの楽曲構造が分析され、現代のJ-POPシーンにおけるラウドロックの受容について深い対話がなされました。

このシリーズは、「隠れメタル」の発掘という番組のミッションを早期に達成した成功例と言えます。

3.3 レジェンドとの邂逅:松本孝弘(B'z)篇(4月)

放送日:2025年4月5日、12日、19日、26日

ゲスト:松本孝弘 (B'z)

4月の1ヶ月間を費やして特集されたのが、日本のロック界の至宝、B'zの松本孝弘氏との対談です。

これは番組のステータスを一気に押し上げる転機となりました。

3.3.1 歴史的背景:DA DA DANCEの絆

松本氏とBABYMETALの関係は、2019年発売の3rdアルバム『METAL GALAXY』収録曲「DA DA DANCE (feat. Tak Matsumoto)」でのコラボレーションに遡ります。

しかし、メディアで両者が揃ってこの楽曲について語る機会は稀有でした。

3.3.2 放送内容の詳細分析

  • 「ultra soul」制作秘話とメタル:
    • B'zの代表曲「ultra soul」の制作プロセスが語られ、キャッチーなメロディとヘヴィなギターリフの融合について、松本氏から直接講義を受けるような展開となりました。これは、BABYMETALが目指す「ポップとメタルの融合」という命題に対する、先駆者からの回答とも受け取れます。
  • 「OZZFEST JAPAN」での目撃:
    • 2015年に開催されたOZZFEST JAPANにて、松本氏がBABYMETALのステージを観覧していたエピソードが披露されました。当時から彼女たちのパフォーマンスがプロの目にも留まっていたことが証明されました。
  • 松本孝弘の「メタル観」:
    • 彼自身が影響を受けたハードロックやヘヴィメタルについて語り、ギタリストとしてのルーツが開示されました。SU-METALたちが、日本の音楽シーンを牽引してきた大先輩に対し、敬意を払いながらも「メタトモ」としてフランクに質問を投げかける様子は、世代を超えた音楽の継承を象徴するシーンでした。

3.4 デジタル世代の推し活とラジオ(6月)

放送日:2025年6月21日

内容:YouTube公開とファンの反応

6月の放送回では、YouTubeでの公式公開が行われ、ファンの「推し活」におけるラジオの重要性が再確認されました。

スマートフォンやPCでいつでも聴取可能な環境が整ったことで、番組の感想をリアルタイムでSNSに投稿する文化が定着し、ファン同士のオンラインコミュニティが活性化しました。

特に、新曲情報やライブの裏話だけでなく、「メンバーの近況(例:MOAMETALがマリオカートをプレイしているという情報)」といった些細な日常会話が、ファンのエンゲージメントを高める重要な要素となっていることが分析されています。

4. 放送クロニクル:2025年下期(7月~11月)の展開

4.1 アニメ・サブカルチャーとの接続:FLOW篇(7月)

放送日:2025年7月19日

ゲスト:FLOW (KOHSHI, KEIGO, TAKE)

夏フェスシーズンを前に、世界中のアニメフェスで活躍するバンドFLOWが登場しました。

  • メタトモネーム:
    • KOHSHI:「テキメタル」
    • KEIGO:「闘魂メタル」
    • TAKE:「タケメタル」
    • これらのユニークな呼称は、番組内での遊び心とリラックスした雰囲気を象徴しています。
  • トークテーマ:「アニメ」と「漫画」:
    • 日本を代表する輸出文化であるアニメと、それに付随する音楽(アニソン)の力について語り合いました。BABYMETALとFLOWは共に「海外ライブ」を主戦場の一つとしており、言語の壁を越えるパフォーマンスの極意について、実践的な議論が交わされました。

4.2 政治とメタルの特異点:高市早苗篇(8月)

放送日:2025年8月9日 、8月16日

ゲスト:高市早苗 (衆議院議員)

番組史上、最も社会的インパクトが大きかったのがこの2週間です。

4.2.1 「メタル・ドラマー」としての素顔

高市氏は政治家としての顔ではなく、あくまで「メタトモ」として出演しました。

最大のトピックは、彼女が学生時代にヘヴィメタルバンドでドラムを担当していたという事実の公表です。

デーモン閣下のようなキャラクターとしてのメタルではなく、プレイヤーとしての経験を持つ政治家の存在は、リスナーに強烈なインパクトを与えました。

4.2.2 内容と反響

  • 音楽愛の爆発:
    • 番組内では政策論争は一切行われず、高市氏の好きなアーティスト(Deep PurpleやLed Zeppelinなどのクラシック・ロックから80年代メタルまで)について熱く語る時間が続きました。「メタルへのアツい思い」が溢れ出し、BABYMETALのメンバーもその熱量に圧倒される場面がありました。
  • エンタメ支援への示唆:
    • 直接的な言及は控えめであったものの、メタル音楽やエンターテインメント業界の裏方支援、海外配信の強化といったテーマについても触れられ、政治と文化支援のあり方について考える契機を提供しました。
  • 海外からの反応:
    • この出演は海外のメタルメディアや掲示板でも話題となり、「日本の政治家はメタルドラマーなのか?」という驚きをもって受け止められました。これは「クールジャパン」の文脈において、意図せざる強力なPRとなりました。

4.3 ラウドロックの盟友たち:SiM & MWAM篇(9月~11月)

秋の改編期にかけては、日本のラウドロックシーンを牽引するバンドマンたちが立て続けに登場しました。

4.3.1 HYDE:美学とメタルの共犯関係

放送日:2025年9月6日 、13日、20日

ゲスト:HYDE (L'Arc-en-Ciel / VAMPS)

「HYDEMETAL」として登場したHYDEとは、3週にわたり美と音楽の融合について語られました。

  • 美容事情: BABYMETALのメンバーが以前から関心を寄せていた「HYDEの美容・健康法」についての質問が飛び出し、ストイックなアーティスト像の裏側が垣間見えました。
  • コラボレーション論: VAMPS時代から海外展開を積極的に行ってきたHYDEの経験談は、BABYMETALにとっても共感と学びの多い内容でした。

4.3.2 SiM (MAH):レゲエパンクとの共闘

放送日:2025年9月27日、10月4日、11日

ゲスト:MAH (SiM)

「MAH METAL」を迎えた回では、より現場感の強い「バンド論」が展開されました。

  • 関係性: SiMとBABYMETALは2013年の「SkullMania Vol.8」での共演以来、フェスシーンで共に戦ってきた同志です。
  • ライブへのこだわり: 特に最終回では「バンドとライブ」にフォーカスし、モッシュやサークルピットが生まれる現場の熱量、海外フェスでのアウェイ戦をどう勝ち抜くかという、実戦的な「戦術論」が語られました。

4.3.3 MAN WITH A MISSION (Jean-Ken Johnny):オオカミとキツネ

放送日:2025年10月25日、11月1日、11月8日

ゲスト:Jean-Ken Johnny

頭はオオカミ、身体は人間という究極の生命体バンドから、Jean-Ken Johnnyが登場しました。

  • テーマ「海外」: 両者ともに「海外ツアー」が活動の主軸です。言語の壁、移動の過酷さ、現地のケータリング事情など、ツアーバンドならではの「あるある」話で盛り上がりました。
  • 異種族間交流: 「キツネ様」を信奉するBABYMETALと、「オオカミ」であるMWAMの対話は、それぞれの世界観(ギミック)を尊重しつつも、中の「音楽家」としての本音が交錯する非常に興味深い内容となりました。

4.4 悪魔の降臨と原点回帰:デーモン閣下篇(11月)

放送日:2025年11月15日、22日、29日

ゲスト:デーモン閣下 (聖飢魔II)

2025年のクライマックスを飾ったのは、聖飢魔IIのデーモン閣下でした。

  • 「悪魔が来たりてベビメタる」:
    • 同年8月に開催された対バンイベント「聖飢魔II vs BABYMETAL」の振り返りがメインテーマとなりました。
  • 系譜の確認:
    • 白塗りのメイク、演劇的なステージング、超絶技巧の演奏陣。聖飢魔IIが確立した「様式美ヘヴィメタル」のDNAを、BABYMETALがいかに現代的に継承し、進化させたか。閣下の口から語られる「BABYMETAL論」は、彼女たちの正統性を歴史的に裏付ける重要な証言となりました。

5. コンテンツ分析と考察

5.1 ゲスト構成の統計的傾向

これまでのゲスト選定を分析すると、明確な戦略が見えてきます。

カテゴリ代表的なゲスト意図・効果
レジェンド松本孝弘, デーモン閣下, HYDE権威付けと継承: 日本のロック史におけるBABYMETALの位置づけを明確化。
同盟国(ラウドロック)MAH (SiM), Jean-Ken Johnny (MWAM), DAIDAI (Paledusk)シーンの連帯: フェス文化圏での横のつながりを強化し、相互送客を図る。
異文化交流FLOW (アニメ), キタニタツヤ (ボカロ/J-POP)間口の拡大: アニメファンや一般J-POPリスナーへのリーチ。
意外性(隠れメタル)高市早苗社会的認知: 「メタル」が一部のマニアだけのものではないことを証明。話題性の創出。

5.2 デジタル・ファンダムにおける受容構造

『メタラジ!』は、放送終了後すぐにReddit(r/BABYMETAL)などの海外コミュニティで詳細な翻訳・要約スレッドが立ち上がることが常態化しています。

  • 「字幕」の文化: 有志による翻訳動画やテキスト起こし(Transcripts)は、英語圏のファンにとって貴重な情報源です。「2025.11.01 BABYMETAL “METARAJI” #44 (ENG SUB)」といったタイトルで共有されるコンテンツは、数千から数万のビューを記録しており、ラジオが間接的にグローバルコンテンツとして機能しています。
  • リアクション: 海外ファンは、日本のラジオ特有の「わちゃわちゃ感(Playful chaos)」や、メンバーの笑い声、リラックスした話し声を新鮮に受け止めています。「Moaの笑い声を聞くだけで幸せ」「Suがこんなに喋るのを初めて聞いた」といったコメントは、これまで抑制されてきた「パーソナリティ」の開示がいかに渇望されていたかを物語っています。

5.3 「声」の力がもたらした変化

これまでBABYMETALは、ライブでのMCを極力排し、「神託」のみを伝えるスタイルを貫いてきました。

しかし、『メタラジ!』において彼女たちは、自身の言葉で楽曲の解釈を語り、ゲストへの敬意を表し、時には失敗談を笑い飛ばしました。

この「人間性」の開示は、カリスマ性を損なうどころか、ファンとの心理的な距離を縮め、より強固なエンゲージメント(絆)を構築することに成功しました。

特に、「メタル」という攻撃的で近寄りがたいイメージのあるジャンルにおいて、彼女たちの明るく知的なトークは、ジャンルへの参入障壁を下げる役割を果たしています。

6. 結論

2025年の『BABYMETALのメタラジ!』は、単なるプロモーション番組の枠を超え、BABYMETALというプロジェクトの第2章、あるいは第3章を象徴するメディア・プラットフォームへと成長しました。

本報告書の分析により明らかになった成果は以下の通りです。

  1. 「メタル」の社会的地位向上: 高市早苗氏や松本孝弘氏ら社会的影響力のある人物を巻き込むことで、メタル音楽が持つ文化的な奥行きと広がりを社会に提示しました。
  2. 文脈の共有: 楽曲制作の裏側や、先輩アーティストとの対話を通じて、BABYMETALの音楽が持つ「文脈(Context)」が言語化され、ファンによる楽曲理解が深化しました。
  3. グローバル・エコシステムの循環: 国内向けのラジオ放送が、デジタル技術とファンの熱量によって即座に翻訳・輸出され、世界中のファンコミュニティを活性化させるという、現代的なコンテンツ・サイクルのモデルケースを示しました。

今後、番組がさらに長期化し、海外アーティストをゲストに招くなどの展開を見せれば、その影響力は計り知れないものとなるでしょう。

『メタラジ!』は、BABYMETALが掲げる「メタルで世界をひとつにする」という目標を、電波とインターネットを通じて静かに、しかし確実に実現しつつある証左と言えます。

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