
1. 序論:英国音楽の聖地におけるパラダイムシフト
2016年4月2日、英国ロンドンのエンターテインメントの中心地であるウェンブリー・パークに位置する「The SSE Arena, Wembley(以下、ウェンブリー・アリーナ)」において、日本のメタルダンスユニットBABYMETALが単独公演『BABYMETAL WORLD TOUR 2016 kicks off at THE SSE ARENA, WEMBLEY』を開催しました。
本記事は、このイベントが単なる一過性の音楽興行ではなく、日本のポップカルチャー輸出史、およびグローバルなヘヴィメタルシーンの再編において決定的な転換点となったことを実証的に分析するものです。
ウェンブリー・アリーナは、1934年の開業以来、ビートルズ、ローリング・ストーンズ、クイーン、デヴィッド・ボウイといった伝説的なアーティストがその舞台に立ち、英国音楽史の殿堂としての地位を確立してきました。
この歴史的文脈を持つ会場において、日本人アーティストが「ヘッドライナー(単独主役)」として公演を行うことは、過去に例を見ない快挙でした。
しばしば比較対象となる日本の伝説的ロックバンドX JAPANの同会場での公演は2017年3月4日に行われており、BABYMETALの公演はその約1年前に実現しています。
したがって、歴史的事実として、BABYMETALこそが「ウェンブリー・アリーナを制した初の日本人アーティスト」であると断定されます。
本公演は、BABYMETALが掲げるコンセプト「メタル・レジスタンス(METAL RESISTANCE)」の第4章の幕開けとして位置づけられました。
これは、同ユニットが「アイドルとメタルの融合」という実験的なプロジェクトから、アリーナクラスの観客を熱狂させる「真正なライブバンド」へと進化したことを世界に知らしめる儀式でもありました。
以下、本記事では、公演の背景、商業的成果、演出の詳細、技術的側面、そしてメディアによる批評を多角的に検証し、その歴史的意義を明らかにします。
2. 背景と戦略的文脈:アルバム『METAL RESISTANCE』と「FOX DAY」の世界展開
2.1 セカンドアルバムの世界同時リリース戦略
ウェンブリー公演の前日である2016年4月1日は、BABYMETALの運営サイドによって「FOX DAY」と命名され、待望のセカンドアルバム『METAL RESISTANCE』が世界同時発売されました。
このタイミングでのリリースは極めて戦略的であり、ウェンブリー公演を単なるツアーの一環ではなく、アルバムのプロモーションにおける最大の起爆剤として機能させる意図がありました。
ファーストアルバム『BABYMETAL』から約2年を経てリリースされた本作は、グループの音楽的成熟と、より広範なグローバル市場への適応を示唆するものでした。
メンバーのYUIMETAL(当時)は、「ファーストアルバム以上に新しいジャンルへの挑戦をした」と述べており、音楽性の幅を広げつつ、ポジティブなメッセージ性を強化した楽曲群が収録されました。
特筆すべきは、全編英語詞による楽曲「THE ONE」の収録であり、これは明らかに英語圏のファンベースを意識し、言語の壁を超えた連帯感を醸成するための戦略的楽曲でした。
2.2 チャートアクションに見る歴史的快挙
アルバム『METAL RESISTANCE』の商業的成功は、日本の音楽産業にとって歴史的な意味を持ちます。
米ビルボードの総合アルバムチャート「Billboard 200」において、同作は初登場39位を記録しました。
これは、1963年に坂本九の『Sukiyaki and Other Japanese Hits』が記録して以来、日本人アーティストとして53年ぶりにTOP40入りを果たした快挙でした。
ファーストアルバムの最高位が187位であったことを考慮すると、わずか2年で飛躍的な成長を遂げたことがデータから読み取れます。
また、英国のオフィシャル・チャートにおいても、ミッドウィーク(週半ば)の速報値で7位を記録し、日本人バンドとしての最高位を更新しました。
| チャート名 | 順位 | アーティスト名 | 作品名 | 年 | 備考 |
| 米 Billboard 200 | 39位 | BABYMETAL | METAL RESISTANCE | 2016 | 坂本九以来53年ぶりのTOP40入り |
| 米 Billboard 200 | 187位 | BABYMETAL | BABYMETAL | 2014 | デビューアルバム |
| 英 Official Albums Chart | 15位 | BABYMETAL | METAL RESISTANCE | 2016 | 日本人最高位(当時) |
このチャートアクションは、ウェンブリー公演が「一部の熱狂的なサブカルチャーファン」だけのイベントではなく、メインストリームの音楽市場に食い込むポテンシャルを持った現象であることを裏付けています。
2.3 英国市場における受容の深化
BABYMETALと英国市場の親和性は、2014年以降急速に高まっていました。
2014年7月のSonisphere Festivalにおけるメインステージ(Apollo Stage)への出演は、当初の懸念を覆し、約50,000人とも言われる観衆を熱狂させました。
その後、2014年11月のO2 Academy Brixton公演、2015年のDownload FestivalでのDragonForceへのサプライズ参加と、着実に実績を積み上げてきました。
ウェンブリー・アリーナは、こうした一連の英国征服活動の集大成として選ばれた会場でした。
現地のメタルメディア『Metal Hammer』や『Kerrang!』が彼女たちを表紙に起用するなど、メディア側の強力なバックアップも存在しましたが、それは彼女たちが単なる「ギミック」ではなく、ライブアクトとしての実力を持っていることが、数々のフェスティバル出演を通じて証明されていたからに他なりません。
3. 経済効果とファン行動分析:記録破りのマーチャンダイズ売上
3.1 会場物販売上記録の更新と経済的インパクト
本公演における最も驚異的な記録の一つが、マーチャンダイズ(グッズ)の売上です。
会場であるSSEアリーナ・ウェンブリーのゼネラルマネージャー、ジョン・ドゥルーリー(John Drury)氏は、「BABYMETALのショーは、当会場の全歴史における1日あたりの物販売上記録を更新した」と公式に認めています。
この事実は、BABYMETALのファンベースが持つ特異な消費性向と熱量を如実に示しています。
記録更新の要因分析
複数の証言やレポートによると、以前の会場売上記録保持者はWWE(世界最大のプロレス団体)や他の大規模なロックバンドであったとされています。
プロレスファンもグッズ購入意欲が高い層として知られていますが、BABYMETALがそれを上回った要因として、以下の点が考えられます。
- 「FOX DAY」限定アイテムへの飢餓感: 新アルバム発売直後であり、新しいロゴやビジュアルを用いた初の商品群であったこと。
- コレクター気質: アイドルファンの文化圏に見られる「全種類購入」や「保存用・布教用」といった高度な消費行動が、現地のメタルファンにも波及したこと。
- デザイン性: 「ゴシック」「カワイイ」「メタル」を融合させた独自のデザイン(魔法陣、狐の面など)が、単なる記念品を超えたファッションアイテムとして受容されたこと。
3.2 待機列の形成と「巡礼」としてのライブ参加
物販売場には、開場の数時間前から長蛇の列が形成されました。
一部の熱心なファンは前日から会場付近で夜を明かし、当日は5時間から6時間待ちという状況が常態化していました。
この行列には、英国国内だけでなく、欧州全土、北米、そして日本から渡航したファンが含まれており、多様な言語が飛び交う国際的な空間となっていました。
多くのファンが、BABYMETALのアイコンである「キツネのお面」や、過去のツアーTシャツ、コスプレ衣装を身にまとっていました。
これは、単に音楽を聴きに来るという受動的な姿勢ではなく、自らも「THE ONE(選ばれし者たち)」の一員としてイベントに参加し、その空間を構成する要素になるという能動的な参加意識の表れと分析できます。
4. ステージプロダクションと技術的詳細:国際協業による「儀式」の構築
4.1 国際混成チームによるステージ制作
ウェンブリー公演のステージ制作は、日本、英国、デンマークの企業による国際的なコラボレーションによって実現しました。
具体的には、BABYMETALの日本側クルーに加え、英国のプロダクション管理会社「Touring Solutions」、デンマークの機材サプライヤー「Victory Tour Production」が参画しました。
特に照明や映像演出に関しては、日本のスタッフによる極めて緻密な要求があったことが報告されています。
現地のスタッフによれば、「日本のやり方は非常に異なり、照明器具が1センチでもずれていれば修正を求められる」ほど、ミリ単位の精度が追求されました。
この徹底したこだわりは、BABYMETALのライブが単なるロックコンサートではなく、厳密にコントロールされた「演劇的体験」あるいは「宗教的儀式」としての側面を持っていることに起因します。
4.2 ステージレイアウトと演出機材
ステージ構成は、アリーナのエンドステージから中央に向かって長く伸びる花道(ランウェイ)と、アリーナ中央に設置されたセンターステージが特徴的でした。
これにより、アリーナ後方の観客もメンバーを間近に感じることが可能となりました。
- リフトと可動式ステージ: オープニングや特定の楽曲では、メンバーがステージ下からポップアップで登場したり、リフトによって高所に持ち上げられたりする演出が多用されました。
- 映像スクリーン: ステージ後方には巨大なLEDスクリーンが設置され、楽曲の世界観を補完するCG映像や、リアルタイムのパフォーマンス映像が投影されました。特に「紙芝居」と呼ばれるナレーション付きのアニメーションは、楽曲間のつなぎとしてだけでなく、メタル・レジスタンスの物語を観客に刷り込む重要な役割を果たしました。
- パイロテクニクス: 楽曲のキメに合わせて炎が吹き上がるパイロテクニクスや、CO2ジェット、爆発音などの特殊効果がふんだんに使用されました。これらのタイミングは、バンドの演奏やメンバーのダンスと完全に同期しており(タイムコード制御)、視覚と聴覚の完全な一致が観客の没入感を高めました。
4.3 音響面での課題と評価
一方で、音響面に関しては一部の課題も指摘されています。
アリーナという巨大な空間特有の反響や、機材の調整不足により、開演直後の数曲ではベース(BOH)の音に50Hzのハムノイズが混入し、低音が過剰に響くというトラブルが発生しました。
また、同期音源(シンセサイザーやコーラスなどのバッキングトラック)の音量が大きく、生バンドの演奏が埋もれがちであったという指摘も、音響エンジニア視点のレビューで見受けられます。
しかし、ライブ中盤以降はバランスが修正され、特にSU-METALのボーカルの抜けの良さは、会場の隅々まで届く力強さがあったと高く評価されています。
5. パフォーマンスの詳細分析:セットリストの物語構造
当日のセットリストは全17曲で構成され、デビュー作『BABYMETAL』と新作『METAL RESISTANCE』の楽曲が巧みに配置されていました。全体の構成は、観客を徐々にBABYMETALの世界観(メタル・レジスタンス)へと引き込み、最終的に一体化させる「物語」として機能していました。
5.1 序盤:降臨と覚醒 (Track 1-5)
- BABYMETAL DEATH: ライブの定石であるオープニングナンバー。不穏な聖歌隊のコーラスと共に、ステージ上のスクリーンには十字架に張り付けられた3人のシルエットが映し出されました。爆発音と共にメンバーが登場すると、会場は一気にカオスと化しました。
- あわだまフィーバー (Awadama Fever): 新作からの披露。「The Mad Capsule Markets」の上田剛士が作曲を手掛けたこの曲は、デジタルハードコアとドラムンベースの要素を持ち、「チュ・チュ・チューイングガム」という中毒性の高いフレーズで観客をダンスの渦に巻き込みました。
- いいね! (Iine!): エレクトロコア、ラップ、デスメタルが秒単位で切り替わる楽曲。初期の代表曲であり、観客のコールアンドレスポンスも完成されていました。
- ヤバッ! (Yava!): スカのリズムを取り入れたアップテンポなナンバー。SU-METALの鋭いボーカルと、YUIMETAL・MOAMETALのコミカルかつ一糸乱れぬダンスが際立ちました。
- 紅月-アカツキ-: SU-METALのソロ曲。X JAPANへのオマージュとも取れる高速メロディック・スピードメタルであり、マントを羽織ったSU-METALが紅蓮の炎の映像を背負って絶唱する姿は、彼女のカリスマ性を決定づけました。
5.2 中盤:神バンドの技巧と多様性 (Track 6-9)
- GJ!: YUIMETALとMOAMETALによるユニット「BLACK BABYMETAL」の新曲。ニューメタルやラップメタルの要素が強く、観客を煽りながら「Wall of Death」ならぬ「Wall of Nice」とも呼べる友好的なモッシュピットを誘発しました。
- Catch me if you can: 神バンド(バックバンド)のソロパートからスタート。BOH(ベース)、大村孝佳(ギター)、藤岡幹大(ギター)、青山英樹(ドラム)による超絶技巧の演奏は、BABYMETALがアイドルという枠を超えた「本物のメタルアクト」であることを証明する最も重要なセクションでした。鬼ごっこをモチーフにした楽曲に入ると、3人のメンバーがステージを駆け回り、可愛らしさと激しさのコントラストを強調しました。
- ド・キ・ド・キ☆モーニング (Doki Doki Morning): グループの原点。初期の初々しさは消え、堂々たるアンセムとして機能していました。
- Meta Taro: バイキングメタルやフォークメタルの勇壮なリズムを取り入れた新曲。観客全員で拳を振り上げ、シンガロングする光景は、戦場に向かう兵士たちのような一体感を生み出しました。
5.3 終盤:カタルシスとアンセム (Track 10-15)
- 4の歌 (Song 4): レゲエパートを含む変則的な楽曲。観客との掛け合いが行われ、緊張感の中での緩和剤として機能しました。
- Amore -蒼星-: SU-METALの新たなソロ曲。天使の翼をモチーフにした映像と共に、スピードメタルに乗せて希望を歌い上げました。SU-METALが膝をつき、再び立ち上がる演出は、再生と不屈の精神を表現していました。
- メギツネ (Megitsune): 和楽器とメタルを融合させた、BABYMETALのアイデンティティを象徴する楽曲。「ソイヤ!ソイヤ!」の掛け声で会場のボルテージは最高潮に達しました。
- KARATE: セカンドアルバムのリードトラック。空手の型を取り入れた力強い振り付けと、「走れ」「掴め」という前向きな歌詞が、海外ファンの心に深く響きました。倒れても立ち上がる振り付けは、バンドの苦難と成長を暗喩していると解釈されました。
- イジメ、ダメ、ゼッタイ (Ijime, Dame, Zettai): スピードメタルの名曲。「ダメジャンプ」と呼ばれるXジャンプでアリーナ全体が揺れました。
- ギミチョコ!! (Gimme Chocolate!!): YouTubeでのバイラルヒットにより世界的な知名度を得た楽曲。イントロが流れた瞬間の歓声は凄まじく、会場全体が大合唱に包まれました。
5.4 クライマックス:国境を超える「THE ONE」 (Track 16-17)
- THE ONE (English ver.): 本編ラスト。メンバー3人がゴンドラ(ピラミッド型の透明な移動ステージ)に乗り、アリーナの上空を移動する演出が行われました。黒いマントを羽織ったメンバーが観客を見下ろしながら歌う姿は神聖ささえ漂わせていました。歌詞が英語バージョンで披露されたことは、世界中のファンを一つにするという明確なメッセージでした。
- Road of Resistance: アンコール。DragonForceのギタリストがレコーディングに参加した高速チューン。観客が作り出す巨大なサークルピットの中心で、3人が「かかってこい!」と叫ぶ姿で、メタル・レジスタンス第4章の開幕を高らかに宣言しました。
6. 時空を超えた同期:日本とのライブ・ビューイング接続
6.1 物理的距離の無効化
本公演の革新性は、現地ロンドンだけでなく、日本国内のファンをリアルタイムで巻き込んだ点にあります。
日本では「ライブ・ビューイング」として、全国のZeppホール(Zepp Sapporo、Zepp Tokyo/DiverCity、Zepp Nagoya、Zepp Namba、Zepp Fukuokaなど)や映画館で中継イベントが開催されました。
6.2 午前4時の熱狂と技術的成果
日本時間の開催時刻は深夜から早朝(午前4時30分開演)であったにもかかわらず、約12,000人のファンが日本の会場に集結しました。
ウェンブリー現地の12,000人と合わせ、合計約24,000人が同時に同じライブを体験するという、時間と空間を超越したイベントとなりました。
特筆すべきは、楽曲「THE ONE」における双方向のコミュニケーション演出です。
ウェンブリーのスクリーンには、日本のライブ・ビューイング会場でキツネサインを掲げるファンの映像がリアルタイム(低遅延)で映し出されました。
ロンドンの観客は日本のファンの姿を見て歓声を上げ、メンバーもその光景を見て感極まる表情を見せました。
この瞬間、物理的な距離を超えて「THE ONE(ひとつになる)」というバンドのコンセプトが、単なるスローガンではなく実体のある現象として具現化されました。
SU-METALは後に、「英国と日本が一つになり、私たち全員が一つになった」と語っています。
7. メディアによる批評と「真正性」を巡る議論
7.1 「ギミック」論争の終焉
英大手紙『The Guardian』は、この公演に対して非常に肯定的なレビューを掲載しました。
評論家は、かつて存在した「チュチュを着た10代の少女たちがメタルをやる」という物珍しさやギミック(色物)としての側面はもはや過去のものであり、BABYMETALが「正当な現象(legitimate phenomenon)」へと進化したと評しました。
特に、「もはや彼女たちについて馬鹿げていると感じる要素は何もない」という一文は、彼女たちが完全に受け入れられたことを象徴しています。
7.2 音楽専門誌による評価の二極化
一方で、硬派なメタル専門誌『Metal Hammer』や『Moshville』のレビューでは、賛否両論が見られました。
一部のレビュアーは、ショーとしての完成度を認めつつも、「期待していた9/10点ではなく6/10点だった」といった厳しい採点を下しました。
その理由として、先述の音響バランスの問題や、生演奏と同期音源のバランス、そして「メタルとは本来、もっと生々しく、混沌としたものであるべきだ」という伝統的なメタル観との摩擦が挙げられます。
しかし、これらの批評においてさえ、「BABYMETALは今後さらに進化するポテンシャルがある」「彼女たちは一発屋ではない」という点では意見が一致しており、無視できない存在として認めざるを得ない状況が生まれていました。
7.3 日本国内の反応とX JAPANとの比較
日本国内のメディアでは、この公演が「日本人初の快挙」として大きく報じられました。
特に、ウェンブリー・アリーナという会場の格が強調され、ロックの聖地での成功が国家的な誇りとして語られました。
また、2017年に同会場で公演を行ったX JAPANとの比較においても、BABYMETALが先行してこの地を制圧した事実は、世代交代や新しい日本音楽の輸出形態(クールジャパンの成功例)として議論されました。
X JAPANが「伝説」としてリスペクトされる一方で、BABYMETALは「現在進行形の現象」として捉えられていました。
8. 結論:東京ドームへの架け橋と以後の展望
2016年4月2日のウェンブリー・アリーナ公演は、BABYMETALのキャリアにおける最大のハイライトの一つであり、以下の点において不可逆的な変化をもたらしました。
- グローバル・アイコンとしての確立: 日本人初のウェンブリー単独公演という事実は、彼女たちのプロフィールにおける「金字塔」となり、その後のワールドツアーやフェスティバル出演における交渉力を飛躍的に高めました。
- ビジネスモデルの証明: 物販記録の更新やライブ・ビューイングの成功は、音楽ソフトの売上だけでなく、体験価値とグッズ消費を中心とした強力なエコシステムが国境を超えて機能することを証明しました。
- 「メタル・レジスタンス」の完遂へ: この公演の成功は、同年の9月に行われた東京ドーム2デイズ公演(計11万人動員)へと続く「メタル・レジスタンス第4章」のクライマックスに向けた強力な推進力となりました。ウェンブリーで得た自信と実績がなければ、東京ドームという巨大な空間を支配することは不可能だったかもしれません。
総括すると、BABYMETALのウェンブリー公演は、日本のポップカルチャーが「サブカルチャーの輸出」という枠組みを超え、現地のメインストリーム市場において「興行として成立するエンターテインメント」へと昇華した瞬間でした。
彼女たちが掲げたキツネサインは、ロンドンの夜空の下で、新しい時代の音楽のあり方を照らし出していたのです。